最新記事

韓国

なぜ文大統領は朴槿恵前大統領を特別赦免したのか? 次期大統領選に影響か

2021年12月27日(月)13時16分
佐々木和義

特別赦免が決定した朴槿恵前大統領 2017年8月、ソウルの裁判所 REUTERS/Kim Hong-Ji

<韓国の文在寅大統領は、朴槿恵前大統領を含む3094人の特別赦免を決定。次期大統領選挙に影響を及ぼす可能性が出てきた...... >

2021年12月24日、韓国の文在寅大統領は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の特別赦免を決定した。朴前大統領の健康問題を考慮したと述べたが、年末特別赦免対象に韓明淑(ハン·ミョンスク)元首相をはじめ、与党寄り・左派寄りの政治家などが含まれることから朝鮮日報は、政権側の人々を集団解放するため朴前大統領を加えたのではないかと論じ、東亜日報は次期大統領選挙に影響を及ぼす可能性を指摘した。

保守系野党・国民の力から大統領選に出馬する尹錫悦(ユン・ソギョル)候補は、検事時代、朴槿恵前大統領の逮捕・起訴を主導した。また、朴槿恵前大統領の妹の朴槿令(パク・クンリョン)氏が大統領選への出馬を表明しており、保守分裂の可能性が浮上している。

朴槿恵前大統領を含む3094人の特別赦免

文在寅大統領は、朴槿恵前大統領を含む3094人の特別赦免を決定した。文政権下で最後の赦免とみられ、運転免許の停止や取消し、交通違反など行政政処分対象者98万人余りの減免措置も実施する。

朴槿恵前大統領は、崔順実ゲート事件と呼ばれた崔順実受刑者の国政介入や収賄などの容疑で17年3月に収監され、21年1月14日、最高裁に相当する大法院で懲役22年、罰金180億ウォンの実刑が確定した。二審判決が下された後の19年4月、弁護団が朴前大統領の持病が悪化したとして刑の執行停止を求めたが、ソウル中央地検が拒絶した。

健康悪化が伝えられる朴前大統領は今年に入って3回入院している。1月20日、新型コロナ・ウィルスに感染した拘置所職員の濃厚接触者として隔離された。陰性だったが大事をとって20日間、入院した。その後、持病の悪化で7月20日から約1か月、ソウル聖母病院に入院し、11月22日からサムスンソウル病院に入院している。拘置所に戻ることなく、31日に釈放されるが、私邸が競売で第三者の手に渡っているため、退院後の住居などは決まっていない。

韓元首相の名誉回復と左派運動家の特別赦免

文在寅大統領はまた、韓明淑(ハン・ミョンスク)元首相の復権を決定した。文大統領は2002年、盧武鉉政権の民情首席として政界入りしたが、韓明淑氏はその盧武鉉政権で女性家族部長官や環境部長官を歴任し、2006年4月、韓国初の女性首相に就任した。

2009年、首相在任中の汚職が明るみになって逮捕され、2015年8月20日、懲役2年と罰金8億8000万ウォンの実刑が確定。17年に刑期を終えて出所したが、政治活動は禁止されていた。

文政権は韓元首相を無罪にすべく総力を挙げて取り組んできた。有罪判決を否定し、当時の捜査チームが偽証を強要したとして数回にわたって監察を行ったが、偽証教唆の痕跡は出てこなかった。しかし、青瓦台(大統領府)は「偽証強要の議論が提起されたことを考慮して、韓元首相の名誉を回復させる」と復権理由を説明した。

ほかに、北朝鮮の革命路線に追従して内乱扇動容疑で懲役9年の実刑判決を受けた李石基(イ・ソッキ)元統合進歩党議員が仮釈放され、不法労働集会、済州海軍基地建設反対デモ、THAAD反対デモなどを主導した全国民主労働組合総連盟(民主労総)や市民団体の関係者の特別赦免や復権も行われる。与党側の左派運動家を解放するため、朴前大統領を特赦対象に含めたという見方が出ている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドル一時153.00円まで下落、日本政府は介入の有

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中