北極の成績表が示した「地球のエアコン」の危機
Rain at Greenland Summit Station, Beaver in the Arctic Area Cause for Alarm
危機の象徴としてグリーンランドの氷山から英グラスゴーのCOP26に運ばれた氷(11月3日) Hannah McKay-REUTERS
<グリーンランドの山頂で雨が降り、アラスカの川がビーバーのダムだらけに>
米海洋大気局(NOAA)が先週発表した2021年版「北極レポートカード」で、北極圏のエコシステムが危機的な状況にあることが明らかになった。
2021年版レポートカードは2020年10月〜2021年9月に12カ国の研究チームが発表した査読付きの論文データを過去の記録と比較してまとめたもの。観測年度末の2021年夏には、グリーンランドの氷床にある気象観測所「サミットステーション」で、降雪ではなく初めての降雨が観測された。
サミットステーションはグリーンランド中心部の標高3000メートルを超える山頂近くに位置し、気温が氷点下を上回ることは稀だ。雪は降るにしても、雨が降るのは観測史上初めてのこと。気象学者は地球温暖化の進行を示す「危険信号」と受け止めている。
2021観測年度に記録された北極圏の最高気温は観測史上7番目の高さにとどまった。だが年度初めの2020年10月〜12月にはこの地域の気温は平年より高めで推移し、「史上最も暖かい北極圏の秋」となった。
ビーバーのダムで永久凍土が融解
NOAA傘下の雪氷データセンターの研究員で、レポートカードの作成に加わったトゥワイラ・ムーンによれば、グリーンランドの変則的な気象パターンは、北極圏全体の状況を示す指標となる。「観測史上最高の気温が記録されたら、温暖化の影響だと騒ぐが、そうでなければ大丈夫だと多くの人が思っている。これは大きな勘違いだ」と、ムーンは言う。
「今年7月段階で、グリーンランドの氷床の状態はどうかと聞かれたら、私は『全く問題なし』と答えただろう。意外にも、その頃までは平年の夏と変わらない状態が続いていたからだ。ところが7月末から8月にかけて、極端な融解が進み、次々と新記録が樹立され、ついにはグリーンランドの最も高い山頂で雨が降るという前代未聞の異変が起きた」
ムーンによると、ビーバーの異常繁殖も心配のタネだ。温暖化のためビーバーが生息地をどんどん北に広げているのだ。アラスカ州西部の川ではビーバーが作ったダムが20年前の2倍に当たる1200も見つかっている。
ビーバーのダムで川の水がせき止められて、周囲にあふれれば、永久凍土の融解がさらに進む。凍土が解ければ地盤が緩んで、道路や建物などのインフラが使い物にならなくなる。