最新記事

移民

非正規金融ネットワーク「ハワラ」、欧州密航あっせんで利用急拡大

2021年12月13日(月)11時16分

ジュネーブに拠点を置く民間調査団体、グローバル・イニシアチブ・アゲンスト・トランスナショナル・オーガナイズド・クライムのチューズデー・レイタノ副所長は、影の銀行(シャドーバンキング)は何であれ、当局が金融取引を通じて密航あっせん者の行動を追跡することを不可能にすると指摘する。

以前なら、密航組織は通常、フランス国内で現金のやり取りをしていた。レイタノ氏は「金融面の捜査は(密航に関する)捜査で柱の1つだが、ハワラはその柱を奪い取っている」と嘆いた。

欧州刑事警察機構(ユーロポール)の広報担当者は、ハワラ自体は非合法でないものの、犯罪集団がマネーロンダリング(資金洗浄)に悪用しかねないと懸念を示した。欧州司法機構(ユーロジャスト)で密航や密輸の取り締まりに従事しているフィリッポ・スピエツィア氏は、ハワラが英仏海峡などの密航の代金決済手段として使われる事例が非常に多いと述べた。

レイタノ氏によると、密航の金銭取引の仲介者を訴追できるケースは非常にまれで、司法当局は訴追にこぎつけるために、資金のやり取りが違法行為に利用されたと仲介人が知っていたことを立証しなければならない。

唯一の選択肢

英国放送協会(BBC)の集計に基づくと、今年これまでにフランスから海を渡って英国に入ってきた移民は、前年の約3倍に膨れ上がっている。英内務省はこの数字についてコメントを拒否したが、英政府の発表では今年に入って2万人余りの入国を阻止したという。

一部の英国移民希望者は、最近になってようやく密航代金の決済手段をハワラに切り替えたもようだ。フセインさんと同じ収容施設で暮らし、やはりイラク・クルド人自治区出身のダワン・マフムードさん(30)は3カ月前、フランスに初めてやってきた際に、密航あっせん者に2000ドル余りをだまし取られた。マフムードさんはロイターに、当時前金で支払ったと明かした。それ以降、二度と同じ目にあわないよう、故郷の仲介人を利用し、英国に無事着いた後で家族に支払いを指示する形にしているという。

ハワラを通じた決済は、ある場所にいる仲介人がお金を預かった上で、違う都市や国にいる別の仲介人に連絡してこれまでに受け取った金額を報告することで機能する。実際には現金が国境間を行き交わないケースが多く、一種の信用制度に基づいている。仲介人はサービスの手数料を請求するが、通常の国際送金などより費用が安いとみなされている。

フセインさんの場合、故郷を離れたのは政治腐敗と就職の難しさが理由だ。ハワラは現地で送金方法として普通に利用されていたので、移民のための当然の選択肢と受け止めた。それでも、密航あっせん者にこれほど多額の支払いをしなければならないことには不快感を隠さない。「彼らは濡れ手にアワで多くのお金を持っていく。だが、われわれほぼ全員にとって、ほかに道はない」と語った。

(Layli Foroudi記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中