最新記事

エネルギー

日本政府「原発45基分を洋上発電」 意欲的な政策を外資が虎視眈々と狙うワケ

2021年12月6日(月)13時35分
前田雄大(EnergyShift発行人兼統括編集長) *PRESIDENT Onlineからの転載
海洋風力発電のイメージ

simonkr - iStockphoto


火力発電に変わる主力電源として、洋上風力への関心が高まっている。「EnergyShift」発行人の前田雄大さんは「政府は洋上風力を『切り札』と位置付け、巨額投資を計画している。しかし、海外企業の絶好の狩り場になる恐れがある」という----。


「主力電源の切り札」日本の洋上風力に迫る危機

昨年10月、菅義偉首相(当時)が「2050年カーボンニュートラル宣言」を行い、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という政府目標を掲げた。だが日本の電源構成は火力発電が全体の7割超を占める。カーボンニュートラルの実現には、火力への依存度を下げ、再生可能エネルギーの普及が不可欠だ。

ただし太陽光でその電力全てを賄うには日本の国土は狭く、山林だらけであるため限界がある。また、サプライチェーンも中国に支配され、日本勢が割って入れないという致命的な弱点がある。そこで政府が注目したのが「洋上風力」というわけだ。

洋上風力発電の規模を2030年までに1000万、2040年までに3000万~4500万キロワットまで引き上げるという目標を政府と民間企業でつくる協議会で決めた。原発1基を100万キロワットと換算すると最大で45基分になる、実に野心的な目標だ。

政府は「エネルギー基本計画」で、洋上風力を「再生可能エネルギー主力電源化の切り札」と持ち上げている。実質、これから火力から洋上風力への大転換が行われる。つまり、大規模な投資が行われることを意味する。

無論、世界の潮流も考えれば日本の経済のためにも脱炭素転換は重要だ。脱炭素の観点から日本でも洋上風力が拡大することは歓迎すべきことだが、懸念すべき点がある。それは、この新しい市場が海外勢の狩り場になる恐れがあるという点だ。

特に洋上風力が産業として盛んな欧州、中でも自国の経済復興の鍵と位置付けるイギリスにはヨダレを抑えられない展開だろう。

本稿では、日本の洋上風力発電が早々に直面する危機を三つの点から警鐘を鳴らしたい。脱炭素をめぐる主導権争いの結果、日本は欧州の経済的侵略の対象に成り得る----洋上風力は脱炭素をめぐる残酷な現実を示す「好例」となりかねないのだ。

なぜイギリスは「洋上風力大国」になれたのか

日本の洋上風力を虎視眈々と狙うイギリスは、「グリーン産業革命」の旗の下、脱炭素や自動車の電動化(EV化)の議論を主導してきた。

10~11月に開かれたCOP26に先立ち、ジョンソン首相は岸田首相との初の電話会談で石炭火力発電の停止に向けたコミットメントを表明するよう要請した。本来エネルギー分野は国家安全保障にかかわる重大事だが、気候変動対策の名の下に露骨な干渉をしてきたことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

輸出規制厳格化でも世界の技術協力続く=エヌビディア

ビジネス

ラトニック氏の金融会社がテザーと協議、新たな融資事

ビジネス

米、対中半導体規制強化へ 最大200社制限リストに

ワールド

ヒズボラ、テルアビブ近郊にロケット弾 ベイルート大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中