パワーカップル世帯の動向──コロナ禍でも増加、夫の年収1500万円以上でも妻の約6割は就労
また、世の中が変わることで、若い世代では男女とも価値観が変容している影響もあるだろう。既出レポート5で述べた通り、共働きがスタンダードになる中で、若い世代ほど仕事と家庭のどちらかを選ぶのではなく、仕事も結婚も子どもを持つことも望む女性が増えている。また、30代以下の世代は、男子も家庭科が必修科目となった世代であり6、女性の大学進学率が短大進学率を上回った7後に進学先を選び、「男女雇用機会均等法」にて男女差別が全面撤廃8された後に社会人となった世代だ。日本社会では依然として男女の役割分担意識が存在するとはいえ、これまでの世代と比べて女性が男性のサポートに回るのでなく、男女が肩を並べて社会で活躍することをごく普通のこととして捉える意識が格段に強まっているだろう。そして、それは女性だけでなく男性にも言えることだ。
コロナ前は共働き世帯による活発な消費が様々な文脈で話題となっており、時短家電やカット野菜などの時短食材、家事代行サービスなどの利用のほか、パワーカップルが都心の高級マンション市場を牽引しているといった報道もあった。テレワークの浸透で働き方は変容したが、特に子どもがいる共働き世帯では、仕事と家庭の両立に十分な時間があるとは言えず、引き続き時短を叶える(時間を買う)需要は強いと見られる。また、都市部ではコロナ禍でも中学受験が活発であり、受験年齢の低年齢化9などによって教育への支出が増えているようだが、やはり、これらの市場にもパワーカップルの姿があるのだろう。パワーカップルは全体からすればごく僅かだが、消費意欲は旺盛と見られ、消費市場へのインパクトは無視できない。今後も一部の消費市場を活性化させ、その規模はじわりと拡大していくと見られる。
ところで、年収階級別に男女の消費性向を比べると、女性の方が男性より高い傾向がある(図表9)。これまでも様々なマーケティングの文脈で言われてきた通り、女性の方が男性より消費意欲が旺盛だ。つまり、女性が働き続けられる環境が整備され、その収入が増えれば個人消費の底上げにつながる。また、夫婦世帯単位で見ても、現役世代の世帯収入が増えれば消費に結びつきやすい。
仕事と家庭を両立するための就労環境の整備と言うと、消費施策としては遠回りのようだが、その効果への期待は大きい。
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5 久我尚子「続・働く女性の管理職希望」(2019/5/10)、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター
6 文部科学省「国際教育協力懇談会 資料集(2002年7月)」等によると、1994年より高等学校にて男子も家庭科が必修科目となった。
7 文部科学省「学校基本調査」によると、1996年入学から女性の大学進学率は短大進学率を逆転。
8 1997年の改正(1999年施行)で努力義務であった募集・採用、配置・昇進等における男女差別が禁止規定になった。
9 「(変わる進学)小学校受験、増える傾向続く」(朝日新聞、2021/11/13、朝刊24面)や「(変わる進学 大学入試新時代へ)中学受験塾、年々進む低年齢化」(朝日新聞、2020/11/28、朝刊30面)など。
[執筆者]
久我 尚子
ニッセイ基礎研究所
生活研究部 主任研究員
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