ワクチンを1日に10回接種した男 他人になりすました複雑な背景とは NZ
本人確認はあえて厳格化せず
ニュージーランドでは12歳以上のすべての人々がワクチン接種を受けることができるが、なりすましによる偽の接種記録の作成が可能だとして、以前にも問題となっていた。
今回の男のような試みは、ワクチンの普及を優先した柔軟な制度の裏をかくものだ。現行制度ではワクチンを希望する場合、医師を通じた事前予約が可能となっているほか、予約不要の接種センターへ直接出向くこともできる。
センターに足を運んだ人々は、住所、氏名、生年月日を職員に伝える必要があるが、職員がそれ以上の身分証明を求めることはない。顔写真入りの身分証明書などで本人確認のプロセスを厳格化することも制度として可能だが、保健省はあえてそのような運用を採らない方針だ。
ホームレスや高齢者、若者や障害をもった人々などのなかには、写真入りの身分証をもたない人々も少なくない。社会的弱者をワクチン接種プログラムから締め出さないよう、保健省は身分証明の提示を求めない方針だ。同省スポークスマンはスタッフ誌に対し、プロセスの厳格化は「可能な限り多くの人々にワクチンを届けるという我々の目標に著しく反する」との考えを明らかにした。
性善説に基づく柔軟な制度が幸いしてか、ニュージーランドでは接種対象となる12歳以上の国民のうち90%以上が、年内に2回目の接種を完了する見込みとなっている。少数の不正は制度設計時に想定されていたであろうが、結果としては制度全体で高い効果を生んでいるともいえそうだ。それだけに、接種に10回臨んだ男の行動に対しては、弱者を考慮したシステムを裏切る行為だとして非難が集中する形となった。