実質GDPがコロナ前の水準に戻っても経済正常化とは言えない理由
たとえコロナ前の水準に戻ったとしても以前の成長トレンドは失われているかもしれない(写真は緊急事態宣言下で店を閉めた居酒屋。2021年1月8日) Akira Tomoshige-REUTERS
<日本では大きな負のショックがあるたびに、実質GDPの水準が下方シフトするだけでなく、その後のトレンド成長率の下方屈折につながってきた。特に顕著なのは個人消費で、賃金が伸び悩む中、消費増税、社会保険料率引き上げ、年金支給額の抑制など、家計の負担増や可処分所得の減少につながる政策が多く実施されてきたことが背景にあると考えられる>
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2021年11月26日付)からの転載です。
欧米に遅れる日本経済の回復
政府が2021年内に実質GDPがコロナ前(2019年10-12月期)の水準を上回る見通しを示したこともあり、その達成時期に注目が集まっている。米国の実質GDPは2021年4-6月期にすでにコロナ前の水準を上回り、2021年初め頃までは日本以上に落ち込んでいたユーロ圏も2021年4-6月期(前期比年率8.7%)、7-9月期(同9.3%)と高成長を記録したことでコロナ前の水準まであと0.5%と迫っている。
図1 日米欧の実質GDPの比較一方、日本は2021年初から9月末までのほとんどの期間で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されていたことを背景に、2021年に入ってから低迷が続いており、7-9月期は前期比年率▲3.0%のマイナス成長となった。この結果、実質GDPの水準はコロナ前を▲2.2%下回っている(図1)。
10-12月期は、緊急事態宣言の解除に伴う個人消費の回復を主因として高成長が期待できるが、実質GDPがコロナ前の水準に戻るためには前期比年率9.5%の高成長となることが必要だ。日本経済新聞社が2021年7-9月期のGDP1次速報後に民間エコノミスト10人を対象に実施したアンケート調査によれば、2021年10-12月期の成長率は平均6.5%で、コロナ前の水準を回復するのは2022年入り後との見方がコンセンサスとなっている。
日本のGDPはコロナ前の水準が低い
日本は現在、新型コロナウイルスの感染状況が非常に落ち着いている。この状態が続けば、個人消費を中心に成長率が上振れ、2019年10-12月期に実質GDPがコロナ前の水準を回復する可能性もある。しかし、たとえ実質GDPがコロナ前の水準に戻ったとしても、経済正常化が実現したと考えるのは早計だ。
第一に、2019年10-12月期をコロナ前とすることが一般的だが、日本は消費税率引き上げの影響で前期比年率▲7.6%の大幅マイナス成長となったため、コロナ前の段階ですでに平常時よりも経済活動の水準が落ち込んでいた。実質GDPがコロナ前に戻るだけでは不十分だ。日本の実質GDPの直近のピークは消費税率引き上げ前の2019年7-9月期で、2021年7-9月期の水準はそれより▲4.1%も低い。実質GDPが2019年7-9月期の水準を上回るまでにはかなりの時間を要するだろう。