最新記事

日本経済

実質GDPがコロナ前の水準に戻っても経済正常化とは言えない理由

2021年11月30日(火)14時11分
斎藤 太郎(ニッセイ基礎研究所)

第二に、実質GDPが約2年間かけてコロナ前の水準に戻ったとしても、裏を返せば、経済がその間に全く成長しなかったということになる。今回のような負のショックがなければ、GDPは時間の経過とともに増加することが普通である。日本の潜在成長率を0.5%とすれば、2021年10-12月期の実質GDPはコロナ前よりも1%程度は増えていたはずだ。実質GDPが元の水準に戻っただけでは正常化とは言えない。

下方屈折するトレンド成長率

問題は、コロナ禍から抜け出した後に、日本の成長率が上昇トレンドに戻るかどうかだ。日本の実質GDPの長期推移を確認すると、大きな負のショックがあるたびに、実質GDPの水準が下方シフトするだけでなく、その後のトレンド成長率(一定期間の平均成長率)の下方屈折につながってきたことが分かる(図2)。トレンド成長率の低下が特に顕著なのは個人消費で、消費税率が3%から5%に引き上げられた1997年以降にそれまでの2.4%から1.3%へと低下した後、リーマン・ショックが発生した2008年以降が1.0%、消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年以降が0.4%と下方屈折を繰り返している(図3)。個人消費のトレンドがGDP以上に大きく低下しているのは、賃金が伸び悩む中で、消費増税、社会保険料率引き上げ、年金支給額の抑制など、家計の負担増や可処分所得の減少につながる政策が多く実施されてきたことが背景にあると考えられる。

実質GDPがコロナ前の水準に戻ることは、あくまでも正常化の入口にすぎない。実質GDPが直近のピークである2019年7-9月期を上回った上で、個人消費を中心にトレンド成長率が少なくともコロナ前の水準まで回復することが、経済正常化の条件といえるだろう。

図2 実質GDPの長期推移/図3 実質個人消費の長期推移

nissei20211130102402.jpg


SaitoTaro_Profile.jpeg[執筆者]
斎藤 太郎 (さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部 経済調査部長・総合政策研究部兼任

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国BYD、第1四半期は10%増益 伸び率は22年

ワールド

米議員、暗号資産で制裁逃れに懸念表明 バイデン政権

ワールド

ケニア中部で洪水と地滑り発生、少なくとも45人死亡

ワールド

米政府、乳牛が鳥インフル感染の州で小売店の牛ひき肉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中