最新記事

動物

白黒くっきりのジャイアントパンダ、実は保護色だった 国際研究

2021年11月8日(月)17時20分
青葉やまと

自然環境での写真では、(写っているはずの)パンダを見つけることができなかった......gui00878 -iStock

<目立つ印象のあるパンダ。森と岩場に恵まれた本来の生息地では背景と同化しやすく、こと色に関してはネズミの一種より隠れ上手だという>

動物園の人気者・ジャイアントパンダは、白黒くっきりとした珍しい配色パターンが特徴的だ。かなり目立つことから外敵に襲われやすそうだが、新たな研究により、自然の生息環境においては保護色の役割を果たしていることが判明した。

研究はフィンランド・ユヴァスキュラ大学のオッシ・ノケライネン博士研究員(生物化学)が率いる国際チームが行い、10月28日付で学術誌『サイエンティフィック・リポーツ』に掲載されている。

研究チームは野外で撮影されたジャイアントパンダの写真を収集し、最新の画像解析技術を用いてカモフラージュ効果の高さを評価した。結果、黒い部分は木の幹や影になった暗い背景などに、白い部分は群生する葉のきらめきや雪の積もる地表などに、それぞれ輝度や分布パターンなどが近いことがわかった。コントラストの高い模様が、むしろ背景との同化効果を生んでいるという。

さらに、一見薄汚れたように見える茶色混じりの白い毛皮にも意味があるようだ。この部分は両極端な白と黒の隙間を埋める中間色の役割を果たすほか、茶系が多い地面と岩肌に馴染みやすくしている。

くわえて、遠くから見た時には毛皮によって輪郭があいまいになり、さらに個体を識別しにくくなる。12メートルから50メートルほど距離を置くとさらに背景と同化しやすい、と研究チームは述べている。

HidingPanda-1.jpg

(FuWen Wei)


ジャイアントパンダは今年7月まで中国で絶滅危惧種に指定されており、野生の個体数は現在でも1800頭前後に限られている。動物園でみる機会が多く、ゆえにかなり目立つ印象があるが、本来の自然界では身を隠すことが得意なようだ。

HidingPanda-2.jpg

(FuWen Wei)

巧妙な隠れ蓑 研究者自身もだまされる

研究のきっかけは、生態学の権威である教授自身がパンダの擬態に目を欺かれたことだったようだ。研究に参加した英ブリストル大学のティム・カロ教授(進化生態学)は、同大が発表したリリースのなかで、「中国にいる仲間が自然環境での写真を送ってくれましたが、(写っているはずの)ジャイアントパンダを見つけることができませんでした。着想を得たと確信しました」と振り返る。

分析にあたりチームは、ジャイアントパンダの貴重な野生環境下の写真を入手した。15体の個体を捉えたもので、この数は決して多くはないものの、配色の基本的な作用を確認するには十分なサンプル数だとチームは説明している。

画像解析の結果、3原色を認識するヒトにおいても十分な擬態効果が発揮されることが判明した。さらに、赤を認識しづらい2色型色覚をもつネコとイヌの視覚モデルにおいては、より高い擬態効果を得られることがわかった。こうした動物の一部は自然界において若いパンダを捕食することから、天敵の目を効果的に欺いているといえそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中