最新記事

動物

白黒くっきりのジャイアントパンダ、実は保護色だった 国際研究

2021年11月8日(月)17時20分
青葉やまと

6つの手法で分析 背景との同化はネズミより得意

研究内容の詳細を紹介すると、チームは6つの解析手法でパンダと背景の同化性能を評価している。第1に人間の主観的な視覚において、自然生息地の遠景から捉えた写真では、近景での観察時よりも背景と同化しやすいことを確認した。

第2から第4の検証では、定量配色解析(QCPA)と呼ばれるツールで分析を行い、パンダの体表の色と自然生息地の背景色の傾向を比較した。輝度の分布や、一つの色が連続して占める領域の広さ、当該色がパンダ本体あるいは背景に占める割合などを比較している。いずれも、パンダと背景のパターンが非常に似ていることを示す結果となった。

第5の検証では色ではなく輪郭に着目し、毛皮によるぼかし効果を検証した。長い毛によって、本来の体表と直行する方向に偽の輪郭が生み出される。この影響は近くで見た際には限定的だが、最低12メートルから優れた効果を現し、50メートル以上で最大の同化効果を生むことがわかった。

最後にチームは、体色と背景の色空間がどれほど似ているかを、代表的な14種の生物と比較した。結果、背景との色の近さだけで論じるならば、ジャイアントパンダは全身茶色のスナネズミの一種よりも見つけにくいという結果になっている。あくまで大きさを無視した比較ではあるが、遠景での見つけにくさを高めるもうひとつの武器となっているようだ。

また、派手な警告色を有する種と比較すると、背景との一致度はより際立って高い。従来パンダの配色の理由として、有毒生物がもつ派手な警告色に似せ、捕食者であるトラや犬科のドールなどを遠ざけるとする見解があった。今回の研究結果はこれに異を唱えるものとなりそうだ。

目立ちやすい「神話」覆す

研究チームは研究の意義について、「ほとんどの哺乳類は一般的に茶色系の単調な色彩をしているが、ごく一部にはよく知られた例外があり、進化上なぜそれが必要とされたかの理由づけが求められ」ていたと説明する。

哺乳類のうち非常に目立つ白黒の体色をもっているのは、ジャイアントパンダやシャチ、そしてシマウマなど、ごく一部に限られる。このパターンは生物学者たちを当惑させてきた。

これまでにも各種仮説は存在したが、はっきりとした理由づけは確定していなかった。今回の研究のように背景との区別を難しくするという説のほか、前述のような警告色説や、冷えやすい手足を黒とすることで熱の吸収効率を高めているのではないかとする考え方などがある。

今回の研究により、他の説のような効果を否定するところまではいかずとも、少なくとも保護色の効果をもたらしていることが解明されたことになる。チームを主導したノケライネン博士研究員は、「(他の生物との)比較結果は、自然の生息地においてジャイアントパンダがあからさまに目立つという神話を完全に覆すものです」と述べている。

白黒で目立ちやすいパンダだが、動物園を訪れた際は少し離れた場所から観察してみると、また違った印象を得ることができるかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ

ワールド

再送-日鉄副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中