最新記事

テクノロジー

米刑務所に広がるAI監視 1カ月で1万時間の通話を傍受、「一線越える」運用に懸念

2021年11月20日(土)12時05分

セキュラスの広報担当者は文書による声明で「弊社製品の利用者すべての市民的自由を保護することにコミットしている」とした。

GTLに対しては、このようなテクノロジーの開発を今も進めているのか、どのような乱用防止手段を導入しているのか問い合わせたが、同社はコメントを控えた。

LEOテクノロジーズは、この市場における最も先進的なシステムとして「ベラス」を宣伝している。

ミズーリ州矯正局への開示請求で入手した文書では、「ベラス」について、ほぼリアルタイムの分析と有用なレポートを提供するという点で、競合製品に比べて独自性があると表現されている。

また「収監者とその関係者の行動パターン」にフラグを立てることで、法執行機関が犯罪組織の構成員を特定する手がかりになるとも評価されている。

カタリナ保安官代理は、このシステムを使えば、何時間分もの通話記録に目を通す代わりに、「特定の目的に合致するキーワードに狙いを定めることで、職員はより効率的に時間を使えるようになる」と話した。

だが、電子フロンティア財団(EFF)の研究者として刑務所の監視システムを調査しているベリル・リプトン氏は、「ベラス」を使って刑務所からの通話の相手を犯罪組織の活動に結びつけてしまえば、無実の人まで巻き込んでしまうリスクがあると語る。

リプトン氏は「自分がその種のリストに載っているかどうか、またそのリストから削除してもらう方法が分からない場合も多い」と述べ、サフォーク郡の法執行機関が中南米系の男性を犯罪組織の構成員として誤認した例があるとも指摘した。

こうした批判についてサフォーク郡にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

「一線を越える」運用も

サフォーク郡の文書によると、「ベラス」のシステムで得られた情報は、すでにLEOテクノロジーズの既存・潜在顧客や、20を超える法執行機関、移民当局・担当部門に提供されているという。

昨年、新型コロナ禍が最も深刻だった時期、LEOテクノロジーズは複数の刑務所当局と提携し、監視対象とする通話の範囲を拘置施設内でのウイルスに関する話題にまで拡張したことが文書記録で判明している。

同社が顧客に配布したデータシートによれば、2020年春には「咳」や「感染」といったキーワードをもとに数千件の通話にフラグを立てており、収監者の中での感染拡大を封じ込めることに貢献したことが強調されている。

ただしこのテクノロジーは、COVID-19の感染拡大の可能性を検知するためだけに使われたわけではない。

メールの記録では、アラバマ州カルフーン郡の刑務所当局は「ベラス」を利用して、収監者が施設の清潔さを請け合っている通話を特定し、刑務所に対する訴訟に対抗するための材料を用意しようとしていたことが示されている。

LEOテクノロジーズのジェームズ・セクストン最高執行責任者(COO)は、イリノイ州クック郡の刑務所へのメールによる営業活動の中で、システムの潜在的な活用法の一例として、このアラバマ州のケースに言及した。

「保安官は、収監者や活動家による民事訴訟で争われている責任を免れるうえで、(こうして特定した通話が)役に立つと考えている」と同COOは書いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日航、国内線24便が遅延 サイバー攻撃でシステム障

ビジネス

午前の日経平均は続伸、年明け相場に期待感も 薄商い

ビジネス

情報BOX:25年度国債発行計画の概要、年限債別一

ワールド

原油先物は小幅上昇、中国の景気刺激策への期待で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 2
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 3
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリスマストイが「誇り高く立っている」と話題
  • 4
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 5
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 6
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 7
    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …
  • 8
    ウクライナ特殊作戦による「ロシア軍幹部の暗殺」に…
  • 9
    中国経済に絶望するのはまだ早い
  • 10
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 7
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 8
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 9
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中