新型コロナに335日、感染しつづけた......慢性化が変異株生むとの指摘も
患者の免疫力が低い場合、ウイルスは体内で通常と異なる発達を遂げることがある。長期にわたる感染と組み合わさると、変異の温床となる懸念がある。本件で感染後期に採取された新型コロナウイルスのRNAサンプルでは、スパイクタンパク質に関わる塩基が変異していたほか、それ以外の部分でも約3万塩基のうち500塩基ほどが消失していた。
米学術誌『サイエンス』は本件を、「新型コロナへの慢性的な感染」であるとしている。ケンブリッジ大学のラヴィンドラ・グプタ教授(免疫治療学)は同誌に対し、「新たな変異株は依然として脅威」であり、少なくともいくつかの変異株については「慢性の感染が原因となっている」と指摘する。
グプタ教授は、イギリスで猛威を振るったアルファ株についても、免疫力が低下していたある患者から発現した可能性があると述べている。同患者は回復期患者から採取した血しょうの投与を受けており、これもウイルスに変化を引き起こす誘因になったのではないかとの見解だ。
昨年12月には医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』において、新型コロナとの154日間の闘病の末に亡くなった患者の例が取り上げられている。継続的な感染により、スパイクと受容体への結合部分を中心とした「加速度的なウイルスの進化」が起きた、と論文は指摘する。この例では、アルファ・ガンマ・デルタ株が一般に定着する以前にすでに、これらの変異株における特徴的な変異が認められたという。
現在WHOは、ワクチン接種後のブレークスルー感染を防止する目的で、免疫不全者に対するブースター接種を推奨している。ウイルスに対してぜい弱な人々を保護することは当然重要だが、さらに間接的な効果として、慢性化のリスクを低減し変異株の発生を抑止することにもつながるかもしれない。