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中国「月収1000元が6億人」の誤解釈──NHKも勘違いか

2021年11月9日(火)16時58分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

だから習近平は国家のトップに就任するとすぐに「革命の聖地」である「延安」を強調し、「革命の精神を忘れるな」と強調し始めた。それは自ずと「毛沢東」を蘇らせることにつながっていく。

しかし習近平が超えようとしているのは鄧小平だ(詳細は拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』)。この基本を理解しない限り、習近平を読み解くことは困難ではないかと懸念する。

なお、「習近平は政敵を倒すために反腐敗運動を行い、ようやく権力基盤を強固にした」という「幻想」が日本のメディアを支配し、中国の真相を見えなくしている。

何度も本やコラムで書いてきたが、習近平ほど政権誕生時に政敵がいなかった指導者は珍しく、前政権(胡錦涛政権)と友好的に政権移行をした政権はかつてなかったと言っても過言ではない。したがって反腐敗運動などをやればやるほど、習近平を恨む人物が激増するばかりで、敵を作るのに貢献するだけだ。

ではなぜ反腐敗運動を徹底したかと言えば、一つには胡錦涛と約束したからだ。胡錦涛政権には江沢民一派がいて、腐敗の総本山である江沢民一派に阻害され、反腐敗運動が進まなかった。だから胡錦涛は「腐敗を撲滅しなければ党が滅び国が亡ぶ」と言って習近平にその実行を約束させた。その代りに習近平の動きやすいように中共中央政治局常務委員(チャイナ・セブン)を選んでいいと、全てを委ねた。

その約束を守らなければならないことと、軍が腐敗分子の巣窟になっていて、軍事改革ができず、ハイテク国家戦略を進めることができなかったからだ。この既得権益者を追い出すことによって、ようやく軍事力の近代化を進めることができ、今やアメリカも恐れる軍事力を持つに至っている。

どうせ「権力闘争だ」という「幻想」の上にあぐらをかき、日本人を喜ばせている間に中国は日本を抜き、アメリカをも抜こうとしている。

こういった視点の間違いが、中国の真相を見る目を曇らせ、日本国民の利益を損なう方向に動いていることにも気づいていただきたい。

一部の間違った視点を持つ研究者の言葉だけに頼り、日本全体をその方向に持って行ってしまったことに対するメディアの責任は重い。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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