最新記事

中国不動産

恒大物業、株売却頓挫の舞台裏──習近平の厚意を蹴った恒大集団

2021年10月22日(金)22時57分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

この6人の幹部の中には許家印の妻が現金化してポケットに入れようとした2300万人民元(約4億円)もある。

それ以外に、許家印は、恒大集団の多くの社員に対して自社の理財商品を購入することを強制してきた。この強制に対する恒大集団社員の不満は尋常ではなく、ネットには「自分が如何に高額の理財商品購入を強要されたか」や「購入しないと減給されたり、業務実績に関連付けて記録されたりする」といった不満が溢れている。

何よりもネットの怒りは、会社が危機状態にあるというのに、会社の上層部が我欲に走って自分だけ「逃げ得」をしようと、現金を集めることに奔走しているということだ。

許家印は高額の私財(2021年で3兆円)を持っているのだが、その私財を今の内に増やして私腹を肥やそうとしていると、ネットの批判は容赦ない。

実は著名な経済学者の任澤平氏は2017年12月から恒大集団のアドバイザー的役割をしていたが、今年3月に辞任したと、10月11日のWechatの「公衆号」で恒大集団の経営方法を激しく批判している。任澤平は何度も恒大集団CEOの許家印に「負債規模を減らすべきだ」とか「多元化経営に反対する」など拡張主義的乱脈経営に反対してきたが、許家印は全て聞き入れなかったので、辞任したのだと述べている。

許家印の身を叩けば、さまざまな埃(ほこり)が舞い立つだろう。

その埃の一つを取り上げて、習近平が許家印を逮捕しないとも限らない。

そして没収した私財を、被害を被った消費者に分配して社会の安定を保つという選択肢もないではないだろう。

いずれにせよ、私欲に走った許家印を無一文に持って行くまで、中国政府も消費者も、あるいは社員までが、許さないかもしれないと思うのである。

なお、中国の多くのディベロッパーは主として国有銀行(不良債権率平均1.45%)から融資してもらっているので、不動産バブル崩壊はなかなか起きにくい。

また恒大集団債務危機のきっかけとなった2020年8月の「3つのレッドライン」は、あくまでも中国人民銀行と10数社のディベロッパーとの間の座談会で示されたもので、条例ではない(参照:9月22日コラム<中国恒大・債務危機の着地点――背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題>https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20210922-00259609)。

習近平による「調整」の余地はまだある。

(本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトhttps://grici.or.jp/2705からの転載である。)

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

20241203issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月3日号(11月26日発売)は「老けない食べ方の科学」特集。脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす最新の食事法。[PLUS]和田秀樹医師に聞く最強の食べ方

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、リビアンに条件付きで融資承認 ジョージア州にE

ビジネス

基調的インフレ指標、10月は刈込平均低下 22年5

ビジネス

印アダニ・グループ一部社債、格下げ方向で見直し=フ

ビジネス

日経平均は反落、トランプ関税を嫌気 内需買いの動き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 4
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    テイラー・スウィフトの脚は、なぜあんなに光ってい…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 9
    日本株は次の「起爆剤」8兆円の行方に関心...エヌビ…
  • 10
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中