恒大物業、株売却頓挫の舞台裏──習近平の厚意を蹴った恒大集団
この6人の幹部の中には許家印の妻が現金化してポケットに入れようとした2300万人民元(約4億円)もある。
それ以外に、許家印は、恒大集団の多くの社員に対して自社の理財商品を購入することを強制してきた。この強制に対する恒大集団社員の不満は尋常ではなく、ネットには「自分が如何に高額の理財商品購入を強要されたか」や「購入しないと減給されたり、業務実績に関連付けて記録されたりする」といった不満が溢れている。
何よりもネットの怒りは、会社が危機状態にあるというのに、会社の上層部が我欲に走って自分だけ「逃げ得」をしようと、現金を集めることに奔走しているということだ。
許家印は高額の私財(2021年で3兆円)を持っているのだが、その私財を今の内に増やして私腹を肥やそうとしていると、ネットの批判は容赦ない。
実は著名な経済学者の任澤平氏は2017年12月から恒大集団のアドバイザー的役割をしていたが、今年3月に辞任したと、10月11日のWechatの「公衆号」で恒大集団の経営方法を激しく批判している。任澤平は何度も恒大集団CEOの許家印に「負債規模を減らすべきだ」とか「多元化経営に反対する」など拡張主義的乱脈経営に反対してきたが、許家印は全て聞き入れなかったので、辞任したのだと述べている。
許家印の身を叩けば、さまざまな埃(ほこり)が舞い立つだろう。
その埃の一つを取り上げて、習近平が許家印を逮捕しないとも限らない。
そして没収した私財を、被害を被った消費者に分配して社会の安定を保つという選択肢もないではないだろう。
いずれにせよ、私欲に走った許家印を無一文に持って行くまで、中国政府も消費者も、あるいは社員までが、許さないかもしれないと思うのである。
なお、中国の多くのディベロッパーは主として国有銀行(不良債権率平均1.45%)から融資してもらっているので、不動産バブル崩壊はなかなか起きにくい。
また恒大集団債務危機のきっかけとなった2020年8月の「3つのレッドライン」は、あくまでも中国人民銀行と10数社のディベロッパーとの間の座談会で示されたもので、条例ではない(参照:9月22日コラム<中国恒大・債務危機の着地点――背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題>https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20210922-00259609)。
習近平による「調整」の余地はまだある。
(本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトhttps://grici.or.jp/2705からの転載である。)
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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