恒大物業、株売却頓挫の舞台裏──習近平の厚意を蹴った恒大集団
もっとも、恒大集団の76.26%の株を許家印夫妻が持っているので、許家印の意思決定ということもできよう。だとすれば習近平の厚意を踏みにじった許家印夫妻に楽観できる運命が待っているとは思いにくい。
中国政府側の意思表明が意味するもの
中国人民銀行は10月15日の第三四半期金融統計発表会で「不動産業界の問題はコントロール可能である」ことと「恒大問題は個別の問題である」旨の回答をした。中国政府側が初めて恒大問題に関して意思表示をしたことになる。
続いて17日に開催された30ヵ国グループ国際銀行業界フォーラムで、中国人民銀行総裁は「中国経済は順調であり、中国恒大の債務問題の波及効果はコントロール可能である」と述べる一方で、やはり「恒大集団の問題は個別問題である」ことを鮮明にし、「消費者や住宅購入者の保護を最優先する」と強調している。
また中国の経済に関しては最高レベルの職位にいる劉鶴国務院副総理は10月20日に北京で開催された「2021年金融街フォーラム年次総会」に書面でスピーチを寄せ、金融リスクに関して以下のように述べている。
──リスクを解決するために中小金融機関の改革を推進し、一部の大企業のデフォルトリスクを処理すべきだ。 現在、不動産市場では個別の問題が発生しているが、リスクはおおむねコントロール可能であり、合理的な資金需要は満たされており、不動産市場の健全な発展という全体的な流れは変わらない。
こういった中国政府側の動きを見ると、中国政府は10月13日時点で、恒大集団が合生創展集団との契約を破棄していた情報を把握していたと考えていいだろう。
この救済策を恒大集団側が蹴ったとなれば、債務危機を深めていく恒大集団の住宅を購入している一般庶民(中間層)の恒大集団に対する怒りが膨れ上がるにちがいない。
それを抑えなければならないとする中国政府側の狙いと、不動産業界全体は制御可能でも、恒大集団の暴挙を看過するわけにはいかないという意図が、中国政府側の言動に透けて見える。
何と言っても、習近平が水面下で差し伸べた救済の手を恒大集団は「小さな利益」を追及して蹴ったのだから、如何なる運命が待ち構えているか、予断を許さない。
恒大集団創始者・許家印の罪と罰
実は恒大集団は10月9日に以下のような公告を出している。
すなわち 恒大集団の幹部6人が、恒大集団傘下にある理財商品などを売る恒大財富集団の理財商品を購入していたのだが、その6名は購入した理財商品が満期になる前に現金化して自分のポケットに入れた。それがばれてデモが起きたりネットで批判されたりしたので、政府からの指導も受け、恒大集団の指定口座に返還した。その上で、恒大集団はさらに6人に対して説明責任を問い処罰を与えていますという公告だ。