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「君は私の肝臓!」愛の言葉にもテンプレがある日本語をもっと自由に【外国人ライター座談会】

2021年10月22日(金)10時44分
ニューズウィーク日本版編集部

マライ 例えば、英語にもなってると思うんですけど、ドイツ語の表現で日本語に無いのは、「シャーデンフロイデ」っていう、人の不幸を笑うもの。

パックン これ最高の概念だよな。「人の不幸は蜜の味」みたいな言い方はあるけど、これは一単語で済む。

マライ 人が不幸になって、それを嬉しく思う気持ち。名詞で、動詞になってないんですけどね。ドイツ人の全てが分かるような表現ですよね(笑)。

パックン それを日本語で動詞に変えればいいんですね。「いま、シャーデンフロイデってる」みたいな。「シャーデンフロイデる」。

マライ なるほどね。逆もあるんですけど、例えば日本語にあって、ドイツ語に無かったりするのが、「悔しい」。意外と無いんですよ。

パックン そうなんですね。「悔しい」って、ちょっと難しいですね。「懐かしい」もそうですよね。

ハンナ はい。そうですね。

マライ 最近の言葉で「エモい」とかもね。「エモい」をドイツ語にしてください、て言われたら、「ん?」てなるかもしれない。

パックン そうだね。日本語も進化してるもんね。ハンナさんどうですか?

ハンナ いろいろあるんですけど、韓国人のアイデンティティとして、「恨(ハン)」という表現があるんですね。日本語に翻訳すると、「恨み」という意味ですけど、ニュアンスが全然違う。韓国人にとって「恨」は、自分たちを頑張らせる力を持つものとして、複雑な歴史とともにある意味、魂のようになっている。それを日本の方々に伝えづらかったという経験があります。逆もあって、ちょうど一昨日、私にある方が「まっしぐら」ていう表現を言ってくださった。すごい勢いを持って行くという表現ですよね。

「命」という愛情表現

パックン 僕、28年日本にいるんですけど、いまだに知らない表現に出会ったりするんですよね。不思議なもので、文化のというか、日本語の奥深さというか。あと、一回覚えたけど、忘れちゃったやつ。

一同 あるある。

シャハラン 私が日常で表現できないのは、愛情。ペルシア語とか、ヒンディー語、アラビア語、トルコ語などあのあたりの言葉って、愛情の表現が非常に豊かなんですよね。

マライ ですよね。

パックン そうなんだ。

シャハラン それを日本語の言葉で、娘や妻に言い表せないんですよね。変な意味になっちゃう。

パックン へえ。日本語だと、「好き」と「愛してる」ぐらいかな?

シャハラン どうですかね。日本語で「私の全て」って普通は言わないですよね。

パックン たしかに気持ち悪いかも。

シャハラン でしょ? 気持ち悪いですよね。でも、それと一緒のことを言うんですよね。私は毎日自分の娘に言ってますから。

パックン 「あなたは私の命です」と。何歳の娘ですか?

シャハラン 5歳です。

パックン まだ許せる(笑)。

シャハラン ほぼ毎日、一日20~30回言ってます。ペルシア語でも、日本語も。日本語で「いのち~」って呼んでますよ。

パックン 娘さんはちゃんと名前があるんでしょ? でもイノチって呼んでるんですか? 「イノチ、ごはんだよ~」て言うの?

シャハラン 慣れてるので、逆に言わないと怒るときあるんですよ。そう呼ぶと、娘が「なあに~」って寄ってくる。

マライ・ハンナ かわいい~。

シャハラン 「レバー」ってあるじゃないですか。

パックン 肝臓?

シャハラン ペルシア語で「私の肝臓」って自分の恋人に言ったりするんですよね。

パックン 内臓にたとえるんですか?!

シャハラン あなたはそれぐらい私にとっては大事だと。

パックン もっと好きになると「ホルモン」とかだったりするの?

一同 (笑)

シャハラン 「ホルモン」は言わない(笑)。肝臓っていうのは、ものすごい大事なんですよね。表現として。

パックン へえ。でもそれ、すごく大事な情報ですね。ぜひ、どこかで書いて欲しいですね。日本人に伝わって欲しいし、もっと愛の表現を増やしていただきたい。日本語の愛の表現、足りないと、僕も思うんですよ。

シャハラン 足りない。表現できない。さっきのマライさんの話もあるんですけど、新しい言葉を作ったっていいじゃないって思っちゃう。

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