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世界に学ぶ至高の文章術

「君は私の肝臓!」愛の言葉にもテンプレがある日本語をもっと自由に【外国人ライター座談会】

2021年10月22日(金)10時44分
ニューズウィーク日本版編集部

天気の話なんかどうでもいい!

マライ シャハランさんは日本語をリスペクトして、伝わる文章書きたいとおっしゃってたんですけど、その上で、新しいものを日本語に入れちゃっていいんじゃないかな、とも思うんですよね。「私のレバーが......」って、そういう文章、あっていいと思うんですよ。伝わればの話ですけどね。

パックン 注釈付きでね。でも、いきなり「僕の肝臓が学校から帰ってきた」とか言ったら、びっくりしますよ。

マライ 面白くないですか? 最初のツカミで「僕の肝臓が学校から~」って、次の文を読みたくないですか?

パックン やっぱりこうやって、われわれも日本の文化を進化させつつ、日本から得たものも自国に発信したりして、お互いの文化の交流点になると、けっこういい働きになるかなと思います。でも今日は、文章の書き方がメインなんで、最後に、読者のみなさんに、もっとキレイな、伝わりやすい、面白い文章を書くためのアドバイスを、いただけますか?

マライ やっぱりもっと自由な発想で書いたらいいんじゃないかなと思います。自分ならではの表現を見つけて、自分の中にある世界をまず表現してみて、どうなるのかをみてみるっていうのがいいんじゃないかなと思います。

パックン それはね、一番日本人に言いたいかもしれない。マライさんがポイントにしちゃって悔しいぐらい。

マライ また「悔しい」ですね。

パックン みんな小学校のころから、全く同じ文章を書かされている。学園祭のあいさつとか、この間のオリンピックの宣誓も、小学生の文章とほぼ一緒。テンプレートを捨てていただきたい。自分で考えたことを共有していただきたい。「天気の話とかどうでもいいよ!」っていつも思う。すいません、熱くなっちゃった。ハンナさんは?

思い浮かばなくても、書く

ハンナ 似た話ですが、文章って「お忙しいところ恐縮ですが」とか固い言葉を使わないとダメなときがあるじゃないですか。でも私も、ホンネが聞きたいときがありますね。自分を抑え気味にして謙遜とか、それもすごく素敵な文化だと思うんですけれど。やっぱり書くってことは、本質的に相手に伝えるものですよね。自分の気持ちを伝えるには、こうすべきっていうものは無いと思います。自分の心の中からのものを一番大事にして欲しいなと。それはネイティブとか非ネイティブとか関係ないと思っていて。完璧な文章というものを目指しちゃうと、怖がって書けないと思うんです。

パックン いいねえ。最近あまり聞かないですけど、昔の手紙とかの「緑も深まったこの頃はどうのこうの」みたいな、決まった文句、素敵かもしれないけど、そのあとの文章に力を入れていただきたいよね。決まり文句ではなくて。自分の文句を見つけていただきたいなと。じゃあシャハランさん。

シャハラン 別にライターを目指さなくても、書きたいことを書くべきなんじゃないですかね。なんでもいいから、思ったことを書き溜めることです。今だって、幸いなことに、(オンラインメモ帳の)グーグル・キープとかあるじゃないですか。私、そこに思ってることを、お風呂から出てきて裸でバーッと書くって感じですよ。

パックン シャハランさんにとってお風呂がさっき言ってたミューズ、芸術の神様になってるんですね。

シャハラン お風呂はいきなりこう、降って来るんですよ。

パックン 指先のシワと同時に、脳みそのシワが増えてるのかもしれない。僕からの最後のアドバイスは、「やれ」。なんか書きたいなら、書け。それだけです。「うわー、なにも思い浮かばない」とか思うときは、パソコンの前に座って、「何も思い浮かばない今、手の指を動かして......」とか書いて、後で書き直す。

僕は作家さんになりたい、いい文章を書けるようになりたい、という人の願望を聞いたときは、「書いてますか?」って聞き返すんですね。それだけの話なんですよ。練習しないでうまくなるものはなかなかない。だから、書きましょう。やればできる。人間は、動いて達成する動物だと思うんです。このあたりでどうでしょう。

座談会参加者プロフィール:
パックン(パトリック・ハーラン)
米コロラド州出身のコラムニスト、タレント。ハーバード大学を卒業後に来日。1997年、吉田眞とお笑いコンビ・パックンマックンを結成し人気を博し、その後多くの番組にレギュラー出演。近著の『逆境力』(SBクリエイティブ)ほか著書多数。

マライ・メントライン
ドイツ北部キール出身。高校時代、大学時代にそれぞれ日本に留学した後、2008年に3度目の来日。NHKドイツ語講座などのテレビ出演、独テレビ局プロデューサー、翻訳、通訳、執筆など幅広く活動する。自称「職業はドイツ人」。

カン・ハンナ
韓国ソウル出身。タレント・歌人・国際文化研究者。2011年に来日し、20年に初の歌集『まだまだです』(KADOKAWA)で現代短歌新人賞を受賞。最近はビーガン・コスメブランドを立ち上げるなど、多方面で活躍している。横浜国立大学大学院博士課程在学中。

石野シャハラン
1980年イラン・テヘラン生まれ。2002年に留学のため来日、15年日本国籍取得。異文化コミュニケーションアドバイザー。シャハランコンサルティング代表。YouTube(番組名「イラン出身シャハランの『言いたい放題』」)でも活動中。Twitter:@IshinoShahran

<2021年10月26日号「世界に学ぶ至高の文章術」特集より>

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