イラク総選挙、最大の敗者はイランだった
Iran Is the Biggest Loser
次期国会の最も有力な政治勢力はシーア派指導者ムクタダ・アル・サドル(写真)率いる政治連合 Alaa Al-Marjani-REUTERS
<フセイン政権崩壊以降、5回目の総選挙が行われた。対外強硬派が第1党を維持。親イラン武装勢力は暴力に訴える可能性をにおわせている。地域大国イラクの今後を読み解く>
イラクでは10月10日、国民議会総選挙(定数329議席)が実施された。総選挙は2003年のフセイン政権崩壊以降、5回目となる。
最終結果はまだ出ていないが、最大の敗者は親イラン武装勢力およびイラクの民主主義になりそうだ。親イラン武装勢力は早くも選挙結果を認めないと主張し、暴力に訴える可能性をにおわせている。
今回の選挙はイラクの民主主義の敗北でもある。選挙不正を疑って有権者の約60%が投票を棄権した。
それでもイラク政府と選挙監視団は選挙の成功をアピール──選挙は比較的スムーズに実施され、暴力沙汰もなく、ほとんどの有権者が投票所に足を運びやすかった、と主張している。2018年に行われた前回の選挙のような不正をなくすため、今回から電子投票システムが導入されていた。
にもかかわらず、イラク政府と選挙管理委員会が集計結果を発表するとしていた翌11日、発表されたのは全19州のうち10州のみ。首都バグダッドを含めて残りはまだ集計中だった。
選挙管理委員会がウェブサイトで暫定結果を発表すると、結果を知りたい国民からのアクセスが集中してサイトがダウン。電子集計の遅れにより、一部は外部の監視の目がない状態で手作業で集計せざるを得ず、国民はさらに不信感を募らせている。
緊張状態は依然続いている。クッズ部隊(イラン革命防衛隊の特殊部隊)司令官でイラクとのパイプ役であるイスマイル・カーニがバグダッド入りし、イランとイラクの親イラン派が集計結果を改ざんするのではという噂に拍車を掛けた。
選挙での親イラン派の不振にイランが不満を持っても不思議はない。イラクでは親イラン派の大物たちが選挙の違法性を訴えている。
過激なイスラム教シーア派民兵組織が支配するファタハ連合は議席数を改選前の48から大幅に減らしたもようで、ファタハ連合を率いるハディ・アル・アミリは選挙結果を拒絶する可能性をちらつかせた。
イラン寄りのシーア派民兵組織カタイブ・ヒズボラの新党は1議席のみ獲得。カタイブ・ヒズボラの指導者アブ・アリ・アル・アスカリは選挙管理委員会に対する暴力までにおわせている。
民兵を締め付けるサドル
最終結果は発表待ちだが、次期国会の最も有力な政治勢力はシーア派指導者ムクタダ・アル・サドルだろう。サドル率いる政治連合は前回より約20議席増の73議席以上を獲得する見込みだ。
サドルは第1党の党首として次期政府の顔触れを決めることになる。