最新記事

中国

現地取材:中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた

EXITING CHINA?

2021年10月16日(土)16時15分
メリンダ・リウ(本誌北京支局長)

こうした悲観論の根底には複雑に絡み合ったさまざまな事情があるが、中国のエネルギー危機もその1つだ。中国東北部の3省は「予想外で前例のない」大停電に見舞われ、電力使用の割当制を導入したと、環球時報は報じた。工場が操業停止に追い込まれたり、妊婦が高層マンションの20階まで歩いて上がる羽目になったりと、このところ停電の話題が中国メディアをにぎわせている。

電力不足の原因の1つは、中国経済、特に電力を大量に消費する建設・製造業がコロナ後の急回復を遂げている点にある。建設ブームの余波で、21年第1四半期に中国の二酸化炭素(CO2)排出量はこの10年間で最大級の増加率を記録したと中国の研究所は報告している。

211019p22_mel03.jpg

「グリーン化」に石炭は矛盾するが THOMAS PETER-REUTERS

炭素排出ゼロを目指す中国政府

一方で、習は炭素排出量を30年までに減少に転じさせ、60年には実質的な排出ゼロを達成すると宣言。中国政府は主要地域の自治体に年末までGDP単位当たりの電力消費量を監視するよう命じた。

「グリーン化」に成功すれば、習の大きな功績となる。そのため地方の党官僚は習に忖度して過剰なまでに排出量減らしに努めているようだ。それでもピークアウト目標の30年までには炭素排出量が「制御不能なほど急増する」時期が多くあるだろうと、EU商工会議所はみている。

同会議所の加盟企業には、自国の法律などで排出削減を義務付けられた企業が少なくない。その場合、どこから電力を調達するかが問題になる。「中国で排出ゼロを達成できなければ、本国などで法令遵守義務を果たせなくなり、中国からの撤退を余儀なくされる場合もあり得る」と、報告書は指摘している。

今はまだ中国からの外国企業の大脱出は起きていないが、コロナ下での強権的な規制に嫌気が差したり、以前ほど歓迎されていないと感じて中国を去った外国人は少なくない。

外国人の流出が最も顕著なのは大都市だ。外国のパスポートを所持する上海在住者(16万3954人)と北京在住者(6万2812人)は、1年前に比べて28%超も減った。中国の税制が変わり、家賃や学費の税控除が受けられなくなったため、年末までにはさらに多くの外国人が中国から出て行くとみられる。

中国の大都市で働く外国人の減少は看過できない問題だとEU商工会議所の報告書は指摘している。「先進国出身のグローバルな人材の流出が止まらなければ、イノベーションに支障を来す」恐れがあるからだ。

「中国では多様な人材がイノベーションを支えてきた」と、ブトケは言う。「だが今では外国人の居住率は世界の最低レベルだ。ルクセンブルクのような小国でも外国人人口は上海と北京を合わせたよりも多い」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中