最新記事

中国

現地取材:中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた

EXITING CHINA?

2021年10月16日(土)16時15分
メリンダ・リウ(本誌北京支局長)
文化大革命

毛沢東時代の文化大革命の混乱と熱狂は中国社会に深い傷痕を残した BETTMANN/GETTY IMAGES

<人質外交に新たな規制、そして「自給自足」体制の構築。中国に限界を感じる外資企業の幹部があげる悲鳴が聞こえ始めてきた>

中国の特色ある企業ミステリー──沈棟の著書はそんな本だ。沈と元妻の段偉紅は、かつては全てを手に入れた大金持ちだった。だが温家宝前首相の親族関連の資産をめぐり、段の名前がニュースの見出しになった。そして2017年9月、段は消息を絶った。

沈は外国に移住し、中国の富裕層と権力者の汚職を告発する回顧録を書いた。本の出版直前、段は出し抜けに元夫に電話して出版中止を懇願した。さもないと息子が危険だ、と。

その後『レッド・ルーレット──現代中国の富・権力・腐敗・報復についてのインサイダー物語』は出版され、評判を呼んだ。中国のVIPに焦点を当てた内容だったが、外国人の経営幹部も警告を読み取った。中国の「人質外交」である。

現地駐在の経営幹部は「中国での潜在的ビジネスパートナーが4年間も行方不明になりかねない」現実を認識しつつあると、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのアジア安全保障イニシアチブ上級研究員のデクスター・ロバーツは言う。

相次ぐ規制強化とスローガンの刷新

外国人経営者が不安と混乱を覚えるのも無理はない。中国では今年に入ってから、規制強化とスローガンの刷新が相次いでいる。テクノロジー業界の大物、暗号資産、過剰なスター崇拝、外国への依存度が高過ぎるサプライチェーンなど、締め付けのターゲットはさまざまだ。

8月には、左派ブロガーの李光満が「深遠なる変革」を予言した。「資本市場は成り金資本家の天国ではなくなる。文化市場は女々しい男性アイドルの天国ではなくなり、ニュースや評論は......欧米文化を崇拝することはなくなるだろう」

この予言が話題になると、一部の政府当局者は事態の沈静化に動いた。財政・通商担当の劉鶴 副首相は、「民間企業、イノベーション、起業家の発展を支援する」と宣言し、中国の都市雇用の80%は民間企業が生み出していると指摘した。

こうした複雑なメッセージは、複雑な臆測を呼んだ。ある視点から見ると、目先の未来は明るく見える。ユニバーサル・スタジオは北京近郊に新しいテーマパークを開園。スターバックスは7~9月に162店舗をオープンし、コロナ禍以前の水準を回復した。上海の米国商工会議所が発表した21年の報告書によれば、調査回答企業の60%が対中投資を昨年から増やしたと答えた。

最も劇的だったのは9月25日、1028日間にわたり中国の対米・カナダ関係を緊張させてきた騒動が終結したことだ。カナダで拘束・保釈中だった通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)が、米司法省との司法取引に合意して中国への帰国が認められたのだ。ほぼ同時に、スパイ容疑で中国に身柄を拘束されていた2人のカナダ人も釈放され、母国に送還された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中