最新記事

中国

管理職の中国出張は危険...外資企業を待つ共産党「人質外交」の罠

China No Longer Safe to Visit

2021年10月7日(木)18時00分
エリザベス・ブラウ(アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)
北京のカナダ大使館職員

中国当局に拘束されたマイケル・コブリグの裁判の傍聴を認められず、裁判所の外に立ち尽くすカナダ大使館職員ら(北京、2021年3月22日) KEVIN FRAYER/GETTY IMAGES

<ビジネスマンの身柄を突然拘束して、交渉を有利に運ぶ「切り札」にする。共産党政府の狡猾な戦術に屈してはならない>

9月25日、中国当局に3年近く身柄を拘束されていたカナダ人マイケル・コブリグとマイケル・スパバが釈放され帰国した。カナダ当局に拘束されていた中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟(モン・ワンチョウ)副会長兼最高財務責任者(CFO)が米司法省との司法取引に合意して釈放された直後だ。この事実は、2人の拘束理由が中国側の主張した「国家の安全を脅かした疑い」ではなかったことを物語っている。

実際、コブリグとスパバがたどった運命は、中国で活動する全ての欧米の企業と組織にとって、ぞっとするようなメッセージだ。中国政府が欧米の政府に侮辱されたと感じたら、その国の企業の社員が拘束され何年も人質にされかねない。社員を中国に派遣しても安全かどうか、企業はじっくり考えるべきだ。

そもそも2018年12月に中国当局が突然、カナダ人2人を中国に対するスパイ容疑で拘束したことが奇妙な話だった。それも孟(ファーウェイ創業者の娘)がアメリカの要請によりカナダで逮捕された数日後に、だ。

孟の容疑は重大で裏付けもある。米政府は孟が米金融機関に虚偽の説明をしてイランに製品を違法に輸出し、その結果アメリカのイラン制裁措置に違反したと主張している。

一方、コブリグとスパバに対する容疑は根拠が薄かった。中国当局は証拠を提示せず、裁判についても外国の外交官らの傍聴を許可しなかった。

それでも中国政府は終始コブリグとスパバの容疑が本物であるかのように振る舞った。今年8月にはスパバに懲役11年の有罪判決を下したほどだ。

だが、孟が司法取引で容疑を認め、バンクーバーでの快適な自宅軟禁(新型コロナ関連の規制に反して家族との外出や友人たちとの食事を楽しんでいた)を解かれると態度を一変。数時間後にコブリグとスパバを快適とは言い難い拘束状態から解放した。これでは、2人を交渉の切り札にするために容疑をでっち上げたことを認めたも同然だ。

コブリグとスパバの拘束理由がスパイ容疑なら、今後も中国に自社の社員を派遣して構わないだろう──欧米企業はそう判断した。2人は罪を犯したから正式逮捕されたのだ、と。しかも多くの企業にとって中国は一番の輸出市場であり、それ以外の企業にとっては重要な生産拠点だ。中国で合弁事業を進めている企業も多い。もっとも研究開発拠点を移した企業は(当然ながら)驚くほどわずかだが。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中