コロナ後の世界を襲うエネルギー不足──価格急騰が家計を直撃
U.S. Heating Bills Could Rise as Much as 30 Percent Amid Increased Demand for Natural Gas
調査会社リスタッド・エナジーのアナリストであるカルロス・トーレス・ディアズは、ロシアがヨーロッパ向けの天然ガスの供給量を減らしたことも影響していると指摘する。こうした要素が全て合わさったことで、ヨーロッパでは天然ガス価格が前年同時期の100万BTU(英国熱量単位)あたり4ドルから、約26ドルへと急騰している。
中国と日本でも同じようなパターンがみられる。異例の猛暑で冷房に例年以上の天然ガスが消費されたのだ。リスタッド・エナジーの計算によれば、この影響でこれらの国では、天然ガス価格が1年前の5ドル(100万BTUあたり)から29ドルに高騰した。
エネルギー関連のニュースを専門とするS&Pグローバル・プラッツのアナリストであるアイラ・ジョセフは、価格が高騰しても、LNGに対する需要は衰え知らずだったと言う。ただし今後は日本やパキスタン、バングラデシュ、台湾やインドネシアは、あまりに高くなったLNGの代わりに原油を使用する可能性が高いとリスタッド・エナジー予測する。環境面からも、憂慮すべき傾向だ。天然ガスよりも原油の方が、燃やした時の二酸化炭素排出量が多い。
消費者は苦境に
米国内における天然ガスの卸売価格は(100万BTUあたり)5ドルを突破(過去2年間はおおむね2ドルから3ドルで推移していた)。10ドルを超える水準だった2000年代に比べればずっと低いものの、2014年以降では最も高い価格となっている。
干ばつに見舞われているブラジルなどの地域で、水力発電の供給力が不足して天然ガスの消費量が増えていることも、世界的な需要の高まりと天然ガス不足に影響を及ぼしている。
原油価格も高騰しており、ヨーロッパでは1バレルあたり80ドル近く、アメリカでは75ドル近くに達している。天然ガスの場合と同様に、価格高騰の主な理由は、パンデミックの期間中、多くの企業が生産量を大幅に減らしていたこと。もうひとつは、天然ガスの価格高騰を受けて、一部の電力会社が天然ガスを原油に切り換えたことだ。NAEDAによれば、アメリカでは今後、暖房用の灯油やプロパンガスが40%高騰する可能性もあるという。
既に生活が苦しい多くの消費者は、さらなる苦境に追い込まれることになりかねない。NAEDAは今夏、これまでで最も多い120万世帯の冷房費の支払いを支援した――昨夏から46%の増加で、支援プログラムの立ち上げから40年の歴史の中でも最も多い部類に入る。支援対象が増えた一因は、例年よりも気温が高かったことで、多くの専門家は気候変動がその原因だと指摘している。