最新記事

中国経済

中国不動産バブルの危険度を、さらに増幅させる3つの「隠れたリスク」

A CONFIDENCE PROBLEM

2021年10月16日(土)17時57分
ウエイ・シャンチン(コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)
恒大集団

中国恒大集団の破綻は金融システム全体を揺るがす恐れがある(深圳の中国恒大本社ビル) ALY SONGーREUTERS

<中国恒大集団の資金繰り悪化が市場を揺るがすなか、政府は金融システム全体を断固として守る意思を示すべきだ>

ここ数週間の世界の株式市場の下落は、中国の不動産大手・中国恒大集団が抱える莫大な債務に対する懸念が一因だと指摘する声は少なくない。その懸念を払拭して投資家の信頼を回復するためには、万が一、中国恒大がデフォルト(債務不履行)に陥ったとしても、中国政府は経済へのダメージを最小限に抑えるためにありとあらゆる措置を取るというサインを市場に送る必要がある。

中国恒大の中核事業は、中小都市における集合住宅の建設・販売だが、最近は電気自動車の開発などにも手を出してきた。その負債総額は1兆9665億元(約33兆円)と、中国のGDPの約2%にも相当する。

見方によっては、問題はこの数字が示唆するほど深刻ではない。中国恒大は、土地(厳密にはそこに建物を建てる権利)、建設済みマンション、そして建設途中のマンションなど多くの有形資産を保有しているからだ。その資産価値は負債総額を上回ると、同社は主張している。

だが、中国恒大がデフォルトに陥った場合、中国経済に与える衝撃は、2兆元の損失どころではないだろう。まず、中国恒大は向こう数週間〜数カ月に利払いや償還の期限を迎える債務を大量に抱えている。その支払いをするためには、流動性の低い不動産ではなく、現金が必要だ。このため中国恒大は、資産の投げ売りを余儀なくされるかもしれない。

ほかにも3つの不透明性が、中国経済全体に与える影響を増幅する恐れがある。第1の不透明性は、中国恒大と同じように借金頼みの成長を遂げてきた不動産開発業者への影響だ。金融機関は不動産業界全体の失速を懸念しており、それが貸し渋りにつながれば、こうした不動産開発業者も資金繰りが悪化して、債務返済に窮するかもしれない。

それは中国の金融システム全体を揺さぶる恐れがある。中国恒大が破綻すれば、鉄鋼やセメントなどの建築材料や、住宅機器のサプライヤーなども打撃を受け、自らの債務返済に行き詰まる恐れがある。幅広い業界で融資の焦げ付きが増えれば、金融機関の経営にも不安が生じる。

まだ不透明な簿外取引の規模

一方で、中国恒大はシャドーバンキング(銀行簿外での金融取引)も幅広く利用していた。その借り入れの一部は、本体の決算に含まれない関連会社に移し替えていたようだ。こうした簿外取引の規模やどのような管理がされていたかは不透明で、問題を肥大化させる恐れがある。

第3の、ひょっとすると最も重要な不透明性は、中国恒大の問題が中国全体のシステム危機に発展した場合、政府が全面的な金融メルトダウンを阻止できるかどうかだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ関税でナイキなどスポーツ用品会社

ビジネス

中国自動車ショー、開催権巡り政府スポンサー対立 出

ビジネス

午後3時のドルは149円後半へ小幅高、米相互関税警

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中