中国「極超音速」兵器、迎撃不可能と大騒ぎすることの馬鹿らしさ
China’s “Hypersonic” Missile Test
今回の打ち上げに使われたとみられる宇宙開発用ロケット「長征」 Tingshu Wang-REUTERS
<中国が迎撃不可能な最新鋭ミサイルを開発したとの報道でパニックになれば、軍拡競争が激化するだけ>
中国の新型ミサイルをめぐって米国防関係者の間でちょっとした騒ぎが起きている。
問題のミサイルは、中国がこの夏に行った実験で「極超音速」で地球の低周回軌道を一周し、その後に核弾頭搭載可能な物体を切り離して、目標に向けて滑空させたと、10月中旬に英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が報じた。
このミサイルなら通常の弾道ミサイルのように北からだけでなく、東、西、南からもアメリカを狙える。つまり警戒レーダーを回避でき、ある米当局者に言わせれば、アメリカのミサイル防衛(MD)システムを「無力化」できる。
中国政府はこの報道を否定。民間の宇宙船の再利用技術を検証していたと説明した。
仮にFT紙の報道が事実で、中国の新型ミサイルがアメリカのMDシステムを無力化するとしても、それは大騒ぎするようなことだろうか。
中国の最新鋭ミサイルがあろうとなかろうと、今のアメリカのMDシステムは目を覆うほど無力だ。長距離ミサイルを迎撃できる唯一のシステムは「地上配備型ミッドコース防衛」(GMD)だが、今年8月に米ミサイル防衛局(MDA)が公開した資料によれば、19回の実験でGMDが模擬弾頭を撃ち落とせたのは12回。しかもGMDの実験は2019年3月以降実施されておらず、直近6回の実験中3回は失敗している。
さらにこれは国家機密でも何でもないが、GMDでは1度に1つの模擬弾頭を迎撃する実験しか行われていない。
MDを回避するもっと簡単な方法が
中国がアメリカのMDシステムを「無力化」したいなら、手っ取り早い方法がある。2つの重要な標的に向けて同時に2個の弾頭を(可能ならば1基のミサイルから)発射させるのだ。1個の弾頭が撃ち落とされても(それも確実ではない)、もう1個が標的を破壊できる可能性は高い。
もう1つの混乱の元もはっきりさせておこう。「極超音速」ミサイルは音速の5倍以上で飛ぶミサイルと定義されている。だが通常のICBMは音速の23倍で飛ぶ。かれこれ60年前から存在するICBMも極超音速なのだ。
アメリカ、ロシア、中国は本当の意味での新型の極超音速ミサイル、つまりほぼ迎撃不可能なミサイルの開発を目指している。その1つは核弾頭を搭載していないICBMになりそうだ。開発に成功すれば、米軍は「即時全地球攻撃」計画に活用する予定だ。
もう1つのタイプの極超音速ミサイルは滑空型で、終始大気圏内を飛ぶため、ある種の警戒レーダーを回避できる。