最新記事

シリア

悪夢のシリア内戦から10年、結局は最後に笑ったのは暴君アサド

Bashar is Back

2021年10月22日(金)18時19分
トム・オコナー(本誌中東担当)

制裁はもはや無意味

「シリアをアラブ連盟に復帰させればシリア国内でも徐々に『汎アラブ主義』が強まり、結果としてシリア政府はペルシャ人の国イランを遠ざけるだろうという怪しげな考えを、エジプト政府は受け入れているようだ」と、シェンカーのリポートにはある。

「地域の他の国々も似たようなもので、イスラエルの安全保障当局にさえ、内戦後のシリアではロシアの存在がイランの侵入を防ぐ抑止力となり得るという信じ難い見解を持つ者がいる」

こうした見方はどれも、アサド政権に対するアメリカ政府の公式見解と相いれない。アメリカとシリアの外交関係は断絶したままであり、それぞれの大使館は閉鎖され、和解への明確な道筋はない。

それでも水面下では微妙な変化があるようだ。「バイデン政権は、アサドとの関係を正常化しないと言っているが、アメリカはそのアラブの同盟諸国がシリアとの正常化を試みても、もはや妨げようとしていない」。シェンカーは本誌にそう語った。

「シーザー法の制裁を本気で適用すれば、アラブ諸国がアサド政権との交易を含む『正常な』関係の回復に動くのを妨げられるかもしれない。だが各国政府の首脳級の交流が進むにつれて、アサド政権に圧力をかけ、孤立させるというトランプ時代の政策は無効化されている......今まではトランプの政策がアサド政権の完全な勝利を妨げてきた」とシェンカーは言う。「アラブ諸国がアサド政権との関係を再度正常化するなか、制裁の維持はますます困難になるだろう」

だがシリア国内には今も、外国の軍隊が勝手に駐留している。バイデン政権がアフガニスタンから米軍を撤退させ、「終わりなき戦争」の終結を宣言した後も、シリア領内にはまだ約900人の米兵が残っている。アサド政権にとっては由々しき事態だ。

アサド政権の最高顧問の1人であるブサイナ・シャアバンは本誌の取材に「今も国土の一部はアメリカとトルコの軍隊に占領されている。シリアの国土全体が解放されない限り、シリアの最終的な勝利について語ることはできない」と答えている。

シャアバンは、バシャル・アサドの父ハフェズ・アサドの時代から政権の中枢にいる大物だ。父ハフェズが大統領になったのは1971年。以来、アサド家による支配は半世紀にも及ぶ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中