最新記事

シリア

悪夢のシリア内戦から10年、結局は最後に笑ったのは暴君アサド

Bashar is Back

2021年10月22日(金)18時19分
トム・オコナー(本誌中東担当)

211026P34_ASD_04.jpg

ロンドンでアサド政権の「虐殺」に抗議する在英シリア人 IN PICTURES LTD.ーCORBIS/GETTY IMAGES

そもそも、アサドがのけ者にされるに至った状況そのものは変わっていないのに、かつてアサドに背を向けた国々が今の時点で関係正常化へと動くのはなぜか。

専門家に言わせると、国家指導者としてのアサドに対する懸念の数々や、それに伴うおびただしい人権侵害にまつわる疑惑よりも、地域の安定を願う気持ちのほうが強いからだ。

「危機と混乱、経済のさらなる悪化、新型コロナウイルスの蔓延、そして(大量の難民発生に象徴される)人道上の危機。こうした難題を抱える中東各国は、ひたすら武力抗争の沈静化を望み、地域の不安定化を招く要因を取り除きたいと考えている」とヤクービアンは言う。

周辺諸国のなかで異なる思惑

だからこそヨルダン(中東におけるアメリカの盟友だ)はシリアとの関係改善に踏み切った。9月の国境再開に加えて、10月にはアブドラ国王が10年ぶりに、アサドと電話会談をしている。

バイデン米政権も先頃、トランプ前政権時代にできたシーザー・シリア市民保護法(アサド政権を利する事業に外国企業が関与することを禁じる法律)による厳しい規制の一部を緩和すると決めた。これでエジプトの天然ガスやヨルダンの燃料をシリア経由で、燃料不足のレバノンに送ることが可能になる。

ほかにも緊張緩和の兆しがある。既にアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンはシリアの首都ダマスカスにある大使館を再開させた。国際刑事警察機構(インターポール)も今月、12年から続く対シリア制裁を解除した。

このように改めてシリアを迎え入れるアラブ諸国の動きについて、今年1月まで米国務次官補(中近東担当)を務めていたワシントン中近東政策研究所のデービッド・シェンカー上級研究員が最新のリポートで解説している。

シェンカーのリポートによると、背景には中東特有の、さまざまな動機があるという。

例えばUAEにとっては、「アサドを再び受け入れてシリアを再建することは、敵対するトルコが難民の流入を阻むという名目で(トルコに接するシリア北西部の)イドリブ県に軍隊を配備している事態を終わらせるという意味を持つ」

またヨルダンの動機は「自国の経済を助け、シリア難民を送還し、シリア経由でトルコや欧州に至る陸路の交易ルートを復活させる」ことだという。ヨルダンにとって、アメリカによるシーザー法は弊害でしかない。

エジプトやイスラエルの動きには、もっと広域的な関心がありそうだ。つまり、非アラブであるイランの影響力拡大を阻止する狙いだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、人質のイスラエル軍兵士の遺体を返還へ ガザ

ワールド

中国外相、EUは「ライバルでなくパートナー」 自由

ワールド

プーチン氏、G20サミット代表団長にオレシキン副補

ワールド

中ロ、一方的制裁への共同対応表明 習主席がロ首相と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中