比ドゥテルテ、支持率急落 奇策の副大統領出馬が憲法違反の疑い
また同時に行われた大統領候補としての調査ではこれまで正副大統領いずれへの出馬をも表明していないドゥテルテ大統領の長女、ミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長が20%と依然としトップの支持率を維持し、2位はマルコス元大統領の長男、フェルナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン・マルコス)氏の15%と続き、以下俳優出身のマニラ市のイスコ・モレノ市長の13%、
プロボクサーのマニー・パッキャオ上院議員の12%と続いている。
この調査はドゥテルテ大統領の大統領としての支持ではなく、あくまで副大統領候補としてどう評価するかを問うたもので、大統領の副大統領出馬という「奇策」に対し国民が拒否反応を示しているといえるだろう。
過去にアロヨ副大統領が大統領に昇格
フィリピンでは1998年10月に就任した俳優出身のジョセフ・エストラーダ大統領が不正蓄財疑惑を議会で追及され、その結果弾劾動議が成立した。これを受けてエストラーダ大統領は任期半ばで退陣に追い込まれ、グロリア・アロヨ副大統領が大統領に昇格して残る任期を務めた事例がある。
もちろんこのとき、アロヨ副大統領は大統領経験者ではないため、憲法違反を問われることはなく、規定通り大統領昇格となった。
ところが今回のドゥテルテ大統領の副大統領への出馬は、もし当選した場合に任期6年間の間に「大統領が職務不能」に陥った際、規定通りの「副大統領の大統領への昇格」が「憲法違反」に問われる可能性があり、その疑問が世論調査の結果にも反映されているというのだ。
ドゥテルテ大統領の副大統領出馬意図
ドゥテルテ大統領が憲法違反の可能性が指摘されながらもあえて副大統領当選を狙う真意についてフィリピンの各種マスコミは「権力の中枢に留まることで政治的影響力を維持したい」との見方で大筋一致している。
ドゥテルテ大統領には就任直後から積極的に推進してきた麻薬関連犯罪摘発で、現場での警察官による司法手続きを経ない容疑者の射殺という「超法規的殺人」を黙認してきたとして人権団体や国際機関から人権侵害と厳しく批判されてきた経緯がある。
国際刑事裁判所(ICC=本部オランダ・ハーグ)も9月15日にこの「超法規的殺人」に関して本格的な捜査開始を許可している。
このためドゥテルテ大統領としては、2022年5月の大統領退任後に「超法規的殺人」や反ドゥテルテを掲げたメディアへの弾圧など大統領在職中の「負の業績」で司法の訴追や国民的批判を浴びることだけはなんとしても回避したい意向とされ、それが副大統領を目指す真の動機とみなされているのだ。
政治生命を賭けて副大統領候補への出馬を決めたドゥテルテ大統領だが、副大統領となることで憲法違反となる可能性を指摘され逆に支持の低下を招いた。一方で今後出馬を取り下げる事態になれば大統領退任後に訴追や批判の集中砲火を受けることも予想され、まさに「四面楚歌」の窮地に追い込まれようとしている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など