最新記事

ドイツ

メルケルの後継者を決める現代ドイツの「キングメーカー」はこの男

The Next Big Player

2021年9月30日(木)08時43分
スダ・ダビド・ウィルプ(ジャーマン・マーシャルファンド・ベルリン事務所副所長)

この歴史的敗北後に党首に就任したのがリントナーだ。女性の登用を増やし、守旧派を一掃し、党の伝統的な立場を捨てることなく現代的なイメージに刷新し、国内各地を視察して、地方メディアの取材を積極的に受けた。

おかげで前回17年の選挙の得票率は10%を超え、自由民主党は連邦議会に返り咲いた。さらに、CDUを中心とする連立交渉に参加したが、リントナーはここで、手ごわい交渉人であることを証明した。

2カ月に及ぶマラソン交渉で、メルケルと緑の党には大きな親和性がある一方で、議会に復活したばかりの自由民主党は足元を見られていると感じたリントナーは、その重点政策が尊重されないことを危惧して、合意直前で連立交渉を離脱したのだ。

今回の選挙で、自由民主党はドイツ経済の活性化を軸に、減税や官僚機構の縮小、年金制度改革などを重点的に訴えてきた。企業寄りの姿勢は、中道右派のCDUと相性がいい。特にメルケルの後継者であるラシェットは、リントナーの出身であるノルトライン・ウェストファーレン州の首相でもあり、2人は緊密な関係を構築してきた。

たとえCDUが第2党に下っても、自由民主党と緑の党は、SPDとの連立に参加する可能性がある(3党のシンボルカラーから「信号機連立」とあだ名される)。

SPDを率いるショルツは中道で、富裕層への増税や社会保障支出の引き上げを訴える左派党との連立は回避したいところだろう。左派党は、NATOなどアメリカの安全保障の傘の下に入ってきたドイツの伝統的な外交政策にも反対している。

今回は交渉の席を立たない

信号機連立も、政策に大きな隔たりがないわけではない。だが、自由民主党はドイツの左傾化を阻止する姿勢を明確にしており、リントナーが4年前のように連立交渉の席を途中で立つ可能性は低そうだ。今回は財務相の座を狙っているから、なおさらだ。

自由民主党は増税をしないこと、そして連邦債務の上限(GDPの0.35%以下)を緩和しない姿勢を変えるつもりはないとしてきた。ただ、大掛かりな投資を否定しているわけではなく、リントナーが財務相になれば、インフラや教育やデジタル化への投資を進めるだろう。

対EUで自由民主党は防衛面での連携拡大を支持する一方で、コロナ禍で進んだ債務の相互化(事実上のEU共同債の発行)を延々と続けたり、財政統合を急ぐことには反対している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中