最新記事

ドイツ

メルケルの後継者を決める現代ドイツの「キングメーカー」はこの男

The Next Big Player

2021年9月30日(木)08時43分
スダ・ダビド・ウィルプ(ジャーマン・マーシャルファンド・ベルリン事務所副所長)
リントナー自由民主党党首

総選挙の1週間前に開かれた自由民主党の党大会で上機嫌な様子のリントナー党首(9月19日、ベルリン) ANNEGRET HILSEーREUTERS

<早々に連立政権で「財務相ポストを希望」していることを公言した、自由民主党のリントナー党首とは何者なのか>

16年にわたりドイツを率いたアンゲラ・メルケル首相の「次」を選ぶドイツ連邦議会選挙(総選挙)が、9月26日に投票日を迎える。これに先立ち、主要3党の首相候補がテレビ討論会を開いた。

時には緊迫する場面もあったが、キリスト教民主同盟(CDU)のアーミン・ラシェット党首と、社会民主党(SPD)のオーラフ・ショルツ(現・副首相兼財務相)、緑の党のアンナレーナ・ベーアボック共同党首の議論は、総じて退屈なものだった。

それだけではない。そこには、ドイツの未来のカギを握る人物がいなかった。自由民主党(FDP)のクリスチャン・リントナー党首だ。

CDUとSPDはドイツの二大政党であるとはいえ、どちらも支持率は20%台にとどまる。このため、どちらが第1党になっても、安定した議会運営を図るためには、第3党と連立を組む必要がある。その最大の候補が、緑の党と自由民主党だ。

実際、緑の党は連立政権入りして、気候変動対策に影響を与えたいと考えているとされる。一方、自由民主党が連立政権で何をしたいかはさほど明らかになっていない。リントナーが、財務相のポストを希望していると公言していることを除いては。

ドイツの財務相といえば、ドイツやヨーロッパの針路にまで影響を与える首相に次ぐ最重要ポストだ。ユーロ圏財務相会合で指導的な役割を果たし、世界銀行やIMFといった国際機関と調整を図り、G20財務相・中央銀行総裁会議で世界経済のアジェンダ設定にも関わる。

戦後ドイツのキングメーカー

そのポストを希望するリントナーの壮大な野心は、これまで彼自身と党の伸長に大きく貢献してきた。現在42歳のリントナーは、2000年に、ドイツ最大の人口を擁するノルトライン・ウェストファーレン州の州議会選挙で最年少当選を果たした。

それは、自由民主党の伝統的な役割が変わりつつある時期でもあった。市民の自由と市場経済を擁護する自由民主党は、西ドイツ時代の1949年から2013年まで18の連立政権に参加してきた。同党がCDUとSPDのどちらを支持するかによって政権政党と首相が決まるという意味で、自由民主党は戦後ドイツの「キングメーカー」だったと言っていい。

ところが緑の党が勢力を伸ばし、1998年にSPDの連立相手になると、自由民主党はもはや絶対的なキングメーカーではなくなった。4期にわたるメルケル政権で連立相手に選ばれたのも1度だけ。2013年の総選挙では、議席獲得に必要な得票率5%を確保できず、連邦議会の議席はゼロに転落した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ミシガン大消費者調査、5年先インフレ予想4.1%

ワールド

米関税に「断固たる対抗措置」、中国国営TVが短文サ

ビジネス

米2月PCE価格+2.5%、予想と一致 スタグフレ

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中