大統領立候補のパッキャオ、正式引退 フィリピンが誇る世界的プロボクサー
2016年には一度現役引退を表明したものの数か月後にそれを撤回して現役復帰戦で勝利したこともあり、今回の引退表明も「また現役復帰するのではないか」とリングに再び立つ雄姿を期待する国民も多かった。そうした背景からパッキャオ氏の「引退表明」の真意が国民の関心事となっていた。
パッキャオ氏のボクサーとしての最後の試合は2021年8月に米ラスベガスで行われたWBA世界ウェルター級王者ヨルデニス・ウガス選手との対戦で、パッキャオ氏が判定負けを喫している。試合後にパッキャオ氏は引退もささやかれながらも「1月に帰ってくることは可能だ。考える」としてリベンジマッチの可能性を否定しなかった。
パッキャオ氏のプロボクサーとしてのこれまでの戦績は72戦62勝(39KO)8敗2分となる。
大統領候補として立候補
引退表明に先立つ9月19日にパッキャオ氏は最大与党「PDPラバン」の一部会派から大統領候補としての指名を受け、これを受けていた。指名受諾演説でパッキャオ氏は「私はリングの中での外でもファイターである。私たちは貧困との闘いに勝たなくてはならない」と大統領への意欲をみせていた。
大統領選にはこれまでに俳優出身のマニラ市のイスコ・モレノ市長、マルコス元大統領の長男フェルナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン・マルコス)前上院議員、元警察幹部のパンフィロ・ラクソン上院議員が名乗りを上げている。
このほか再選禁止規定で大統領選に出馬できない現職のドゥテルテ大統領がパッキャオ氏と同じ政党「ラバン」の支持派から副大統領候補として出馬を決めている。
フィリピンでは映画俳優出身のジョセフ・エストラーダ氏が大統領(1998年~2001年)を務めたことがあるように政治家以外の人物が国民の人気と支持で当選する土壌があることから、パッキャオ大統領誕生も現実味を帯びている。
パッキャオ氏は引退表明の中で「私は今後フィリピンのボクサーを支援していきたい。そうすることで次のチャンピオンが出てくる」として後進のボクサーの指導にあたりたいとの希望も明らかにしている。
愛称が「パックマン」のパッキャオ氏が今後のフィリピン大統領選の台風の目になるのは間違いないだろう。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など