最新記事

軍事

「新・日英同盟」の始まりを告げる英空母「クイーン・エリザベス」来航が残した宿題

2021年9月21日(火)18時05分
秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所〔RUSI〕日本特別代表、大阪大学大学院招聘教授)
英空母「クイーン・エリザベス」

英空母「クイーン・エリザベス」を背後に記者会見に臨む岸信夫防衛相(9月6日、横須賀) Kiyoshi Ota-Pool-REUTERS

<英国の新型空母「クイーン・エリザベス」は太平洋地域で初めて日米などと合同演習「パシフィック・クラウン21」を行った。しかし、派手な活動とは裏腹に同空母はいくつかの課題を抱えており、日本への航海そのものが壮大な実験だった。英国の狙い、日本に期待することとは何か>

英国の新型空母「クイーン・エリザベス」の艦隊が9月4日、英国の母港、ポーツマスから2万キロ以上の航海を経て、日本に来航した。空母は4日間、横須賀の米軍基地の桟橋に接岸していたが、その姿を一目見ようと港の周辺には毎日大勢の艦船ファンが押しかけ、カメラを向けていた。

「クイーン・エリザベス」の日本来航については大手のメディアでも批判的な論調はほとんどなく、むしろこれを歓迎する意見のほうが多かったように思う。日英同盟の復活という歴史ロマンを感じるからなのか、見慣れた米軍以外の新しいパートナーの出現に新鮮味を覚えるためなのか、その来航は安全保障協力の域を越え、日英友好のために一役買ったと言えよう。

「クイーン・エリザベス」がインド太平洋に初めて展開する外交的な意義については今年3月16日、寄稿した「英国は日本を最も重視し、『新・日英同盟』構築へ──始動するグローバル・ブリテン」の中で詳しく述べているので、ここでは同空母が直面する課題と日本の役割について述べてみたい。

akimoto20210921queenelizabeth-2.jpg

英空母「クイーン・エリザベス」艦上の戦闘機F35B(2019年) Royal Navy

パシフィック・クラウン演習

「クイーン・エリザベス」の艦隊は5月に英国を出港した後、地中海やアデン湾、インド洋、南シナ海で周辺の同盟国、友好国と多くの合同演習を行ってきた。そのハイライトとも言える演習が、8月から9月にかけて東シナ海から日本の関東沖で4回に分けて実施された日本・英国・米国・オランダ・カナダの多国間演習、「パシフィック・クラウン21」である。

この演習は日英米が太平洋地域で行う初めての海空の合同演習で、日本からは海上自衛隊と航空自衛隊が参加した。演習の最大の目的は、参加国同士が協力して作戦を行う相互運用性(Interoperability)を試すことであったが、特に注目されたのは関東沖で行われた演習に米海兵隊と英国空軍のF35Bと航空自衛隊のF35Aという最新型の同型の戦闘機がそろって参加したことだ。

F35は第5世代の戦闘機と言われ、その高いステルス性能に加えて、同盟国や友好国の同型機との間で、レーダーや各種のセンサーで得た情報を共有できるネットワーク機能を備えており、航空戦の歴史に革命をもたらすとまで言われている。

今回の演習で日英米のF35が初めて合同の飛行訓練を行ったが、日本近海の洋上での航空作戦についてどのような知見を得ることができたのか注目される。

このように英空母「クイーン・エリザベス」のインド太平洋への展開は多くの成果を挙げてはいるが、その活動の多くがこれまで経験のない実験的な試みである点は指摘しておかなくてはならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中