最新記事

アフガニスタン

バイデンの失敗で、テロ組織をめぐる「力学」は9.11以前の状況に逆戻りした

WAR ON TERROR FAILING

2021年9月15日(水)18時39分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
アフガン和平合意署名式

カタールで行われたアメリカとタリバンの和平合意署名式(2020年) Ibraheem al Omari-REUTERS

<タリバンは復活し、アメリカはアフガン新政権やその協力国を罰せられず、新たなテロの時代の到来を許すことになった>

あれから20年――。2001年以来、米兵2000人以上の死に関わったテロリスト集団の旗が、再びアフガニスタンの首都カブールに翻ることになった。

アルカイダによる9.11テロの後、アメリカ主導で始まった対テロ戦争は、バイデン米大統領の就任以前から行き詰まりかけていた。その失敗はもはや、取り返しがつかないかもしれない。タリバン政権の復活を許したバイデンの歴史的ミスのせいだ。

バイデンはタリバンに力を与えることで、全ての暴力的なイスラム教組織を勢いづかせた。その結果、国際テロが再来するリスクは極めて高くなっている。

タリバン復活は、ジハーディスト(聖戦士)にとって近年最大の勝利だ。近いうちに各国の狂信者をかくまう「テロ超大国」が台頭し、テロ攻撃訓練を求めて世界中からイスラム主義者が集結するだろう。

タリバンの政権奪取の重大性と米政権の容認姿勢を曖昧にすべく、バイデンは「よいテロリスト」と「悪いテロリスト」という見せ掛けの線引きを試みている。

過激派組織「イスラム国」(IS)傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」はタリバンの大敵だと、バイデンは主張する。8月26日、カブール空港周辺で自爆テロ事件が起きた際にはIS-Kの犯行とし、即座にタリバンを無罪と見なした。

「タリバンとアルカイダは今も密接な関係」

だがタリバンとIS-K、アルカイダはイデオロギーを共有し、いずれも暴力的ジハード(聖戦)に傾倒する。米国防総省が認めたように、全土を支配下に置いたタリバンは服役中だったIS-Kメンバー数千人を釈放した。一方で国連安保理の最近の報告書によれば、「タリバンとアルカイダは今も密接な関係にある」。

米国務省は、タリバンとその一部門で最強硬派のハッカニ・ネットワークは「別個の存在」だという認識を広めようとしてきた。だが実際には、両者はアフガニスタンにおけるパキスタンの「ディープステート(国家内国家)」だ。

ハッカニ・ネットワークの指導者シラジュディン・ハッカニはタリバンの副司令官で、9月7日に樹立が宣言されたアフガニスタン暫定政権の内相代行に就任した。それに先立つ同月4日、カブールをパキスタン軍統合情報局(ISI)のハミード長官が訪れている。アフガニスタンでの真の勝者は、事実上の代理政権を誕生させたパキスタンであることを浮き彫りにする事実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中