東南アジアで新型コロナ感染がピークアウトの兆し
東南アジア各国はワクチン接種を急いでいるが、ワクチン接種完了者の割合をみると、マレーシアが4割超と日本並みに進んでいるものの、それ以外の国はインドネシアとフィリピンが1割超、タイが9%、ベトナムが1%と低水準にとどまる(図表10)。
変異株の脅威に対してワクチンの有効性は不透明な部分もあるが、ワクチンの普及が進めば経済活動と感染対策を両立しやすくなり、デルタ株の広がりで身動きが取れない現在の状況から抜け出せるようになるだろう。マレーシアでは8月10日からワクチン接種完了者を対象に行動規制が緩和されたが、現在のところ更なる感染拡大の動きは見られない。
製造業購買者担当指数(PMI)東南アジアの製造業PMIは7月に急速に落ち込み、企業マインドが大きく悪化していることが明らかとなった(図表11)。先進国の製造業PMIが拡大基調を維持したのとは対照的な動きである。東南アジア各国ではこれまで感染対策として個人に対する行動制限措置が多かったが、最近は企業の操業にかかわる措置が導入されるようになって生産や投資活動に支障が出ており、サプライチェーンの混乱が生じていることが背景にある。
近年外資系企業の進出が著しいベトナムでは工業団地に拠点がある製造業は従業員の「労・食・住」を工場内に集約することが操業継続の条件となっているが、この工場隔離を実施した企業では7月以降、感染例が相次ぎ報告されているほか、工場隔離を望まず退職する者も多く、操業を続けることが難しくなっている。今後公表される8月の経済指標では規制強化に伴う生産活動停滞の影響が顕在化するだろう。
東南アジアは電機や自動車など数多くの日系企業が進出しているように、世界の製造業の生産拠点として注目を集めている。しかし、現在のようにデルタ株の脅威に対して都市封鎖など厳しい行動制限措置を実施せざるを得ない状況が続くようであれば、(今後の新たな変異株に対しても)生産基地の役割を担うことが難しいと判断されかねない。また、こうした有事の際の脆弱性が目立つと東南アジアへの進出を躊躇する企業が増えるため、コロナ禍の長期化は東南アジア経済への長期的な打撃となる恐れがある。
[執筆者]
斉藤誠(さいとうまこと)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部准主任研究員
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