最新記事

ビジネス

東南アジアで新型コロナ感染がピークアウトの兆し

2021年9月7日(火)14時22分
斉藤誠(ニッセイ基礎研究所)

各種の感染対策が奏功して4月中旬に感染状況がピークアウトするのとほぼ同時に、フィリピン政府は医療態勢の改善を理由に首都圏・周辺州における外出・移動制限を最も厳しい措置から1段階引き下げることを決めた。もっとも第2波が沈静化していない段階での制限緩和となったため、その後も感染が高止まりすると7月下旬に第3波が到来した。フィリピン政府は8月6日から首都圏・周辺州の外出・移動制限措置を再び最も厳しい水準に引き上げたが、デルタ株の封じ込めに苦戦を強いられ、足元の1日あたりの新規感染者数は再び1万人台を突破して過去最多を更新している。病床使用率が全国で71%となるなど病床不足は深刻だが、政府は経済活動への影響を考慮して8月21日から首都圏・周辺州における外出・移動制限を最も厳しい措置から再び1段階引き下げることを決めた。今後は外出制限の緩和によって人流が増えて感染拡大ペースが加速する恐れがある。

[ベトナム:感染に歯止めがかからず、社会隔離措置を強化]

ベトナムの新規感染者数の推移ベトナムはこれまで厳しい水際対策や濃厚接触者の強制隔離などが奏功して短期間で感染を収束することに成功してきた。しかし、今年4月末に北部を中心に感染第4波が広がると歯止めがかからない状況に陥った。政府は当初感染源となっていた北部2省(バクザン省、バクニン省)を中心に首相指示16号に基づく社会隔離措置を講じて1日あたりの感染者数を6月まで100~300人程度に抑え込んでいたが、人口密度の高い南部ホーチミン市に感染が広がると、感染源の特定が難しくなり感染者が急増した。

nissei20210906195109.jpg

ホーチミン市は7月9日から社会隔離措置を適用して事実上の都市封鎖に入って外出や他地域との移動が原則禁止になった。その後も社会隔離措置の対象範囲が南部19省市全域に拡大し、北部ハノイ市(首都)や中部ダナン市などの大都市も相次ぎ行動規制が厳格化されたが、感染状況は改善せず、足元では1日あたりの新規感染者数が1万人台に達している。第4波の被害が最も深刻なホーチミン市では8月23日から9月6日まで外出禁止措置が終日となり、政府は更なる規制強化で感染拡大を防止する姿勢を明確にした。政府は第4波の収束目標時期について、ホーチミン市が9月15日まで、南部の工業地域3省が9月1日まで、その他が8月25日までと示しているが、既に目標達成時期を見直す必要に迫られている。

3――経済活動の継続に向けてワクチン接種動向がカギに

ワクチンの完全接種率(人口に占める割合)足元ではインドネシアが感染第2波を乗り越えつつあり、タイでも感染改善の兆しが見えてきたが、今後の行動制限の緩和によって人流が増加すると、感染再拡大は避けられない。当面は規制を導入しては解除する展開が予想される。

nissei20210906195110.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨

ビジネス

英総合PMI、12月速報は52.1に上昇 予算案で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中