最新記事

タリバン

米軍が残した武器より危険な生体データがタリバンの手に?

Taliban May Have Access to Biometric Data Used to Track Afghans Who Helped U.S.

2021年9月1日(水)17時27分
ナタリー・コロロッシ
カブール国際空港をパトロールするタリバン兵

米軍撤退完了の翌日、カブール国際空港を我が物顔でパトロールするタリバン戦闘員 REUTERS

<タリバンに身元を知られれば報復を受ける恐れがある米軍の協力者らはデジタルデータの消去を試みている>

タリバンは猛烈な勢いでアフガニスタンを制圧し、米軍は撤退した。米軍など西側の軍や機関に協力したアフガニスタン人はタリバンの報復を恐れて身を隠しているが、今や、米軍が収集したアフガニスタン人の生体認証データが、タリバンの手に落ちようとしている。

かつて米軍など西側諸国ために働いたアフガニスタン人は、タリバンによる逮捕や処刑を恐れ、身元を証明するデジタルデータを隠したり破壊したりし始めた、とニュースサイト「ザ・カンバセーション」は報じた。

同サイトによると、米軍とアフガニスタン政府は過去20年にわたって、生体認証データをアフガニスタン全土で収集した。

米国防総省は2011年までに、戦闘が続いていたアフガニスタンとイラクで約480万人分の生体認証情報を集めた。携帯用の生体認証デバイス(HIIDE)を使って収集された記録は、63万件にのぼる。この装置には、指紋の読み取り機、虹彩スキャナ、カメラが組み込まれており、疑わしい人物の指紋や顔写真など識別情報を簡単に収集できるという。

しかしアフガニスタン政府は、安全保障上の理由でアメリカが入手した生体認証データを使うだけでなく、投票や刑事訴追、雇用する労働者の身元調査などにデジタル認証技術を利用した。

本人確認が一発で

アメリカに拠点を置く人権団体「ヒューマン・ライツ・ファースト」は最近、こうしたデジタルデータベースがタリバンに利用されるかもしれない、と警告した。

ロイター通信によると、同団体はツイッターで「タリバンがアフガニスタンの様々な生体認証データベースや装置にアクセスする可能性が高い」と訴えた。「そこには指紋や虹彩スキャンのデータを網羅したデータベースや、顔認識システムも含まれる」

さらに、このデータはアメリカや国際NGO,人権団体の協力者や、アフガニスタンの前政権に関与していた人物を追跡するために使われる可能性がある。

タリバンはまた、このデータを「新しい階級制度を作るために使いかねない。求職者は経歴を生体情報データベースで調べられ、アフガニスタンの前政権や治安部隊とつながりがあると、就職を拒否される可能性がある」と、ヒューマン・ライツ・ファーストの最高技術責任者ウェルトン・チャンはロイターに語った。

同団体はその後、デジタル履歴を削除する方法や、顔認識技術を出し抜く方法を教えるガイドブックを発行した。上から見下ろす角度で撮る、顔の特徴を隠すものをつける、メイクアップを厚く施すなど、顔認識装置をごまかすアイデアが含まれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中