最新記事

BOOKS

1人の子供がいじめられ続けることで、全体の幸せが保たれる社会...「神学」から考える人権

2021年9月2日(木)12時12分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
いじめ

kieferpix -iStock

<ICUの「キリスト教概論」がリベラルアーツに強い学生を育てる理由。話題の本『ICU式「神学的」人生講義 この理不尽な世界で「なぜ」と問う』の一部を抜粋紹介、第2回>

国際基督教大学(ICU)で人気の必須教養科目「キリスト教概論」を書籍化した、魯 恩碩(ロ・ウンソク)著『ICU式「神学的」人生講義 この理不尽な世界で「なぜ」と問う』(CCCメディアハウス)は、個人が多様な他者と出会っていくこの世界で、愛し、赦し、共に生きるためのヒントを与えてくれる一冊だ。

日常の、そして世界で起きている問題の多くは、一つの答えでクリアに解決できるものではない。ときに、まったく相容れない思想や意見に接することもある。そんなとき、どう処すべきか? 

解が一つではない12の問いに、7人の学生と、著者である魯教授が真摯に向き合う『この理不尽な世界で「なぜ」と問う』は、まさにICUの教育理念を体現した「究極のリベラルアーツ本」と言える。

本書より、一部を抜粋紹介する連載第2回は、『第一講 一人の犠牲で、みんなが幸せになれるとしたら?:この世界を見るための「準拠枠」』より、人間の尊厳について考える対話をお届けする。

第1回:自らの至らなさを自覚できるからこそ人間は偉大...現代世界の思想的土台を「神学」に学ぶ

■二度失敗したら、三度目はどうなると思いますか?

教授: 皆さんは「準拠枠」という言葉をご存じでしょうか? 英語の「Frame of Reference」という言葉とだいたい同じです。

私たちは物事を理解したり、考えたり、行動したり、判断したりするときに、「己の中に存在する、ある基準」に従って、行為や態度を決めます。この判断の拠りどころを、「準拠枠」と言います。「準拠枠」は生まれ育っていく過程でつくられていきます。誰しも自分なりの基準を持つようになっていくのです。

皆さんにこんな質問をしてみましょう。
あなたは二度失敗しました。三度目はどうなると思いますか?

岡田: 三度目は成功するんじゃないでしょうか。

田村: 私は......。うん、やっぱり成功するかなと思います。

教授: 皆さん、ポジティブでいいですね。しかし、「また失敗する」と答える人もきっといるでしょう。昨年の授業では「秋になったら?」と聞いてみました。ある学生は「紅葉がきれいになる」と答えました。別の学生は「寂しくなる」と答え、なぜか「彼女が戻って来る」と答えた人もいました。何があったのかは、わかりません(笑)。

同じ一つの事柄でも、人それぞれ、感じ方や考え方は異なります。「寂しくなる」といった学生の感情を理解するためには、「紅葉がきれいになる」という「自分の準拠枠」だけが絶対ではないと理解する必要があります。「私の準拠枠」とは、世界に、人の数だけ存在しているかもしれない多様な準拠枠の一つである。そう認識することが大切です。「私の準拠枠を通して見る世界が、いちばん正しい世界である」という先入観のレンズを少し外してみることが、自分のものとは異なる準拠枠を理解することにつながります。(略)

 著者:魯 恩碩
 出版社:CCCメディアハウス
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独失業者、3月は前月比+2.6万人 昨年10月以来

ワールド

韓国史上最悪の山火事、7日目で鎮圧状態に

ビジネス

トヨタなど5社の北米輸出、2月は4.5%減 関税前

ワールド

ECB4月利下げ観測高まる、米関税懸念とインフレ鈍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影された「謎の影」にSNS騒然...気になる正体は?
  • 2
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 3
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 4
    地中海は昔、海ではなかった...広大な塩原を「海」に…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    「完全に破壊した」ウクライナ軍参謀本部、戦闘機で…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    「マンモスの毛」を持つマウスを見よ!絶滅種復活は…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 8
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 9
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 10
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中