最新記事

テロリスクは高まるか

タリバンの思想は農村では「当たり前」? カブール市民が震え上がる「恐怖政権」の正体

THE MYSTERY OF TALIBAN RULE

2021年8月31日(火)17時50分
貫洞欣寛(ジャーナリスト)

8月17日、カブール市内で初の記者会見を 行うタリバンのムジャヒド報道官(中央) JIM HUYLEBROEKーTHE NEW YORK TIMESーREDUX/AFLO

<米軍を追い出し20年の時を経て復権したタリバン。彼らは地元アフガニスタン人にとって「恐怖政権」か、国外勢力と戦う「解放軍」なのか>

世界を「カブール陥落」のニュースが駆け巡ったのは、2021年8月15日のことだ。アフガニスタンから米軍が完全撤退するのを前に、イスラム主義勢力タリバンが首都カブールを再び占拠。国外に脱出しようと市民がカブール空港に殺到し、離陸する飛行機にしがみつく光景は見る者を震撼させた。

市民は、なぜタリバンの復権を恐れるのか。20年の時を経て権力の座に返り咲くタリバンとは、何者なのか。

米同時多発テロ事件から2カ月後の2001年11月。私は当時勤務していた朝日新聞の記者として、米軍の侵攻によりタリバン政権が崩壊した直後のカブールを取材した。タリバンは1996年から2001年までの「第1次政権」で、10歳以上の女子の登校を禁じた。頭から全身をすっぽりと覆うブルカの着用を義務付け、女性が働くことはおろか、夫など男性の付き添いなしで外出することも禁じた。

そんな中でも、女子のための宗教教育を名目にタリバンから開設を許された複数の「私塾」が、ひそかに算数や理科などを教え、女子教育の灯を守っていた。その1つを訪れると、16歳の少女が「タリバンが去ったから、大学に行って夢だった医師になれる。そして、私のような子を助けてあげたい」と涙を流しながら語った。彼女は足に障害があった。

再び、窮屈な時代が訪れるのか。恐怖感と重苦しい沈黙がカブールを包むなか、タリバンは2021年8月17日、記者会見を開いた。ザビフラ・ムジャヒド報道官は、「女性の権利を尊重する」と語り、「シャリーア(イスラム法)の枠内で」と付け加えた。

タリバン=「学生たち」

タリバン(ターリバーン)は、その名前自体が組織の由来と、土着性を示している。(男子)学生を意味するアラビア語由来の言葉「ターリブ」を、現地のパシュトゥー語で複数形にした「学生たち」。これが「ターリバーン」という組織名の意味だ。アラビア語の複数形「トゥッラーブ」ではないところに、あくまで地元に根差す組織と自己規定していることがうかがえる。

タリバンの創始者ムハマド・オマル(1960〜2013)は80年代、ソ連軍と戦うイスラム戦士の1人だった。オマルは90年代、アフガン東部のマドラサ(イスラム神学校)でイスラム教について教え始めた。

こうしてアフガン東部の農村地帯やパキスタンのアフガン難民キャンプのマドラサで学ぶ学生らが銃を取り、戦国状態で乱れたアフガン社会でイスラムの教えに従った「世直し」に立ち上がったというのが、タリバン側が主張する組織の由来だ。

アフガニスタンでは90 年代初頭、全土に無政府状態が広がって軍閥が群雄割拠し、暴力的で強引な統治と勢力争いの戦闘を繰り広げていた。こうした軍閥と違って公然とは賄賂を求めず、支配地域では厳格な統治で治安を回復させた当時のタリバンに対し、市民の間では歓迎する声があった。特に農村部ではそうだった。

しかし、タリバンが瞬く間に支配地を広げて96年に首都カブールを占領し、実質的な政権となった頃には、さまざまな出自や価値観を持つ住民が集まる都市部を中心に、反感も強くなっていった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中