ワクチンパスポートは合理的な感染対策であり、「不公平」批判は筋違いだ
The Argument for Vaccine Passports
球場の入り口でワクチンパスポートを見せるニューヨーク・メッツのファン JEENAH MOONーREUTERS
<アメリカで共和党支持者を中心に広がる「個人の自由の侵害」「黒人差別」論の大いなる勘違い>
ニューヨークでは8月中旬から、レストランやジム、コンサート会場など屋内施設を利用する際に、新型コロナウイルスのワクチン接種済みの証明が義務付けられている。サンフランシスコやニューオーリンズも同様だ。
「ワクチンパスポート」は至極合理的な予防措置だが、ポピュリストの保守派や強硬な反ワクチン主義者は、個人の自由に対する重大な侵害だと怒りの声を上げている。
彼らがことさら強調するのは、民主党がワクチンパスポートを支持しながら、人種差別を理由に有権者ID法に反対するのは偽善である、という主張だ。例えば、ニューヨーク市の若中年層のワクチン接種率は白人の53%に対し、黒人は30%にすぎず、アフリカ系アメリカ人がレストランやバーから閉め出される可能性が高い、というわけだ。
一方で有権者ID法は、投票に際し身分証の厳格な確認を求めるが、黒人やマイノリティーには身分証がない人も多く、彼らの投票機会を制限しかねないという批判がある。
しかし、ワクチンパスポートと有権者ID法は、政策の目的が明らかに異なる。そもそも比較することがばかげているのだ。
ワクチンパスポートは、多くの人の命を奪って世界を根底から覆したウイルスの蔓延という、現実に存在する問題の解決を目的としている。
現実には不正投票はごくわずか
一方の有権者ID法は、表向きは不正投票を防ぐためだが、現実には不正は存在しないと言えるほど少ない。投票用紙のすり替えや二重投票が本当に横行しているのなら、議論する価値もあるだろう。しかし今のところ、民主党政権が想像上の危機ではなく現実の危機に対処しようとするのは当然だ。
もっと簡単に言おう。ワクチンパスポートは事態が悪化している疫病を食い止めるためであるのに対し、有権者ID法は民主党支持者の投票を阻止して、投票率を抑えるためのものだ。
ワクチンパスポートの義務化が黒人社会にとって不公平だと主張しているのは、共和党支持者の強硬派だけではない。極端な例では、ボストンの臨時市長で黒人のキム・ジェイニーが、南北戦争以前に「自由黒人」が奴隷ではないという証明書の提示を義務付けられたことに例えている。
他の大都市でも、人種間の公平性への懸念や、黒人社会にワクチン接種をためらう人が多いことに敏感に反応して、ワクチンパスポートを推進しない首長は出てくるだろう。