アフガニスタン撤退は、バイデンの「英断」だった
Ending the Forever War
だが、米軍幹部と情報関係者らは、野に下ったタリバンの反乱に対して軍事的勝利を収めることは不可能だと、当初から分析していた。同時に、アフガニスタン政府は救いようがなく腐敗しており、アメリカの支援がなければ存続できないと評価していた。
バラク・オバマ大統領(当時)は、08年の就任早々にそれを認識した。副大統領だったバイデンも同じだ。そこでオバマは、駐留米軍を一旦は縮小した。だが、「テロとの戦い」という看板を下ろす政治的コストや、アメリカは「負けた」とレッテルを貼られる可能性から、完全撤収には尻込みした。ドナルド・トランプ前大統領もそうだった。
アフガニスタンにとどまるか、それとも撤収するか。この問題を考えるとき、アメリカの政策立案者らが一番に問わなければならなかったのは、そもそもアフガニスタンにおけるアメリカの重大な国益は何か、だ。テロとの戦いか。戦略的な外交政策か。それを考えれば、おのずとアメリカがアフガニスタンに関与する理由は大きく失われる。
アメリカの国益は傷つかない
バイデンは、アメリカがもはやアフガニスタンに重大な国益を持たないと判断した。たとえタリバンが権力を奪還しても、アメリカの重大な国益は傷つかない。タリバンの目的は、アフガニスタンからアメリカを排除することだからだ。
アメリカの国家資源を、アフガニスタンの人々を守り、「アフガニスタンにおけるテロとの戦い」にささげ続ければ、「アメリカのテロとの戦い」への資源配分がゆがめられ、アメリカの戦略的課題に対処する能力が低下する。
現在のアメリカの戦略的課題とは、大国の仲間入りを果たして攻撃的な姿勢を強める中国や、依然として敵対的なロシア、中東を不安定化するイラン、人類の存続を脅かす地球温暖化、そしてアメリカの安定と民主主義を脅かす国内の政治社会問題だ。
米軍の撤収が終了すれば、アフガニスタンを取り巻く力学は変わっていく。アメリカは、テロとの戦いを手伝うと言いつつ、ひそかにタリバンを支援してきたパキスタンと距離を置き、インドとの関係を深化させるだろう。
イランとロシアと中国は、泥沼にはまるアメリカを積極的に傍観する戦略から、パイプラインや「一帯一路」ハイウエーを建設するなど、アフガニスタンの天然資源と地理を利用することに力を入れるようになる。