タリバンが米中の力関係を逆転させる
つまりタリバンは、アフガニスタンの経済復興に中国の支援と投資を希望しているということだ。
アフガニスタンからの米軍撤収は習近平にとって千載一遇のチャンス
2001年9月11日に「9・11」事件が起きると、その年の12月にアメリカが主導してアフガニスタン侵攻を始めた。それまではアフガニスタンの4分の3ほどを占拠していたタリバンは、アメリカによるアフガニスタン政府支持により撤退を余儀なくされた。アフガン政府を支援したのは米軍だけでなくNATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)も加わっていたため、タリバンとの間で紛争が絶えず、多くの犠牲者を出してきた。
20年間にわたり、アメリカはアフガン統治のために「1兆ドル以上を費やし、数千人もの自国の軍隊を失った」とバイデン大統領は言っている。
もっともタリバンとの和平交渉を行ったのはトランプ前政権で、2020年2月29日に「和平合意」に漕ぎ着けている。和平合意ではアメリカは135日以内(2020年6月半ば)に駐留米軍を1万2000人から8600人に縮小すること、タリバンはアフガニスタンをアメリカなどに対するテロ攻撃の拠点にしないように過激派を取り締まること、約束が履行されれば駐留米軍は2021年春に完全撤収することなどが決まった。
しかし捕虜の釈放などに関するアフガン政府との意思疎通が行われていなかったことなどから紛争が継続したため、バイデン大統領は今年4月、タリバンによる攻撃継続などを理由に、撤収期限を5月1日から9月11日に延期すると発表した。しかし7月8日には、8月31日までに撤収すると期限を変更している。
状況は時々刻々変わっていっているので正確なことは言えないが、8月13日における勢力図を見ると、以下のようになっている。
赤はタリバンの占領地域で、濃いオレンジは危険地域(タリバンが優勢な地域)、薄いオレンジは中程度に危険な地域で、黄色が危険性の低い地域、すなわちアフガニスタン政府側が何とか勢力を保っている地域である。黄色は一か所しかないので、ほぼタリバンによって制圧されていると言っていい。
タリバン政府が誕生するのは、もう時間の問題だ。
ここアフガニスタンが、中国寄りの、というより反米のタリバン勢力によって制圧されれば、「世界は中国のものになる」と中国は思っているだろう。
米中覇権争いの天下分け目の戦いの最中に、アメリカは中国に巨大なプレゼントをしてあげたことになる。