ロックダウン違反者を警備員が射殺 過剰暴力と批判高まるフィリピン
人権委は「コロナ規制違反者の脅威に対抗するためとして、警察官、警備員などが実力行使しやすい状況が生まれているが、こうした傾向は社会に肯定的効果を与えない」の見解を示している。
また「カラパタン」も「警察官でもない地方行政機関の警備員がなぜ銃で武装しているのか」との疑問も投げかけている。
フィリピン国家警察によるとコロナ規制違反関係ではこれまでに約2万人が逮捕されているという。行動違反、移動違反、必要書類不携帯などで市民が抵抗したり従わなかったケースが多いという。
フィリピンではデルタ変異株の猛威もあり、8月に入って感染者が166万人を超え、死者も約3万人と東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国中でインドネシアに次ぐ最悪の数字を更新し続けている。
このためドゥテルテ大統領は国民に対して「接種か刑務所行きか」などとして積極的なワクチン接種を呼びかけるとともに各種の感染防止対策の規制強化を実施している。
8月6日からは首都圏マニラとその周辺地域に最も厳格な「強化されたコミュニティ隔離措置(ECQ)」を実施。ECQはフィリピン政府、保健当局による「移動・経済制限措置」4段階の中で最も厳しい規制で、病院やスーパーマーケットなどの主要産業以外の営業自粛、短縮が求められ、市民は居住地区以外への移動制限がかけられ、夜間外出禁止令も出されている。飲食業はテイクアウト・デリバリーサービスのみに限定される。
警察官にボディカメラ装着へ
こうしたなか、フィリピン最高裁は8月までにフィリピン警察のすべての警察官に対してボディカメラの装着を義務付ける決定を下した。
これは警察官による違法行為や人権侵害から容疑者や一般市民を守るためで、多くの国民から歓迎されている。
現地からの報道などによると、最高裁の決定ではすべての警察官にボディカメラと記録機器を着用することが義務付けられ、不正使用や不正アクセス、装着拒否などは罪を問われる可能性があるという。最高裁ではボディカメラ導入で「捜査時の暴力や死者を未然に防止するとともに人権活動家からの訴えも減少することが期待できる」としている。
警察官など治安当局による不当逮捕や暴力、超法規的殺人などの人権侵害の抑制、阻止にどの程度効力を発揮するのかは未知数だが、国家警察は現在必要な法律や内部ルールの整備を進め、ボディカメラ導入に全面的に協力するとしており、今後の取り組みが注目されている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など