株価の日米格差は縮小へ ワニの口は年内に閉じる
問題は米国株がどのくらい下落するかだ。FRBが金融緩和を縮小するかどうかといえば、ほぼ100%縮小に向かうことは市場参加者の誰もが理解している。したがって、実際にFRBが緩和縮小を決定しても大きなサプライズにはならないはずだが、前回(2014年)の経験からも緩和縮小が決まると株価は一定期間の調整局面に入るだろう。
最大のカギは縮小開始時期と縮小ペースで、市場のコンセンサスとなっている「21年末までに緩和縮小を決定、22年1月~3月に縮小開始、22年内に縮小完了(緩和措置終了)」に近い内容となるかが注目される。
仮に米国の物価上昇率や労働市場の回復度合いがFRBの想定より強く、21年内に縮小開始を前倒しするようなことがあれば、米国株は10%~15%急落する余地がある。NYダウは3万ドルを割る可能性もあろう。
当然、その場合は日本株も下落を余儀なくされるが、米国株ミニバブル終了の"もらい事故"なので下落率は米国株の半分程度か、それより小さく済むのではないか。そもそも現在の日本株(日経平均2万7,000円台)は全く割高ではないうえ(やや割安)、7月下旬~8月上旬の第1四半期決算発表で業績の上ブレ期待が高まると日本株の割安度が増す。
加えて、ワクチン接種率(必要回数の接種人数)が人口の40%程度に達すると、冒頭に述べた海外の機関投資家のチェックリストを通過しやすくなるはずだ。株式市場は先取りするのが常であることを考えると、接種率30%~35%で動き出す投資家がいるかもしれない。
そうなれば日本株の出遅れが目立つことになる。米国株からの退避先としても日本株市場に投資マネーが流入しやすくなるだろう。結果、今春以降に開いたワニの口が閉じる公算が大きい。
ただし、このシナリオには条件がある。ワクチン接種が進むことは言うまでもないが、肝心なのは日本政府が緊急事態宣言を9月以降に再々延長せず、ワクチン接種率などに応じて段階的に経済活動の正常化を進めることだ。世論形成に影響力を持つメディア等の責任も大きい。
米中対立が再燃しないことも必要条件だ。現状は中国政府が中国企業の米国上場を規制するなど"資本市場の分断"にとどまっている(中国政府は中国企業のコングロマリット化を予防することが真の狙いかもしれない)。あくまでリスクシナリオだが、仮に米中経済圏の分断に発展することがあれば、日経平均は2万5,000円程度まで下落する可能性が出てこよう。
[執筆者]
井出真吾(いでしんご)
ニッセイ基礎研究所
金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト
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