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【モデルナCEO独占取材】mRNAワクチンはコロナだけでなく医療の在り方を変える

CHANGING MEDICINE FOREVER

2021年8月5日(木)18時18分
デブ・プラガド(ニューズウィーク社CEO)
モデルナワクチン

ウイルスの遺伝情報とタンパク質に着目したmRNAワクチンは、新型コロナだけでなく癌治療や再生医療の分野でも期待されている KAI PFAFFENBACHーREUTERS

<驚異的な速さで新型コロナワクチン開発に成功したバイオベンチャー企業モデルナのCEOが語る、mRNAの可能性と癌治療の未来>

ステファン・バンセルが「社員2号」として米モデルナに入社して10年、同社は新興企業から時価総額890億ドルの世界的企業に成長した。記録的な速さで開発された同社のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)ワクチンは、6000万人近いアメリカ人に投与されている。バンセルは6月、本誌英語版の発行元ニューズウィーク社のデブ・プラガドCEOとズーム(Zoom)でテレビ会談を行い、今後のメッセンジャーRNA(mRNA)研究への期待と癌治療の未来、COVID-19ワクチンの追加接種が必要になる可能性について語った。

――あなたはモデルナに入社する前、仏ビオメリュー社のCEOとして従業員数千人、売上高数十億ドルの企業を経営していた。2011年に2人目の社員としてモデルナに移ったのは、どう見てもリスクの高い行動だった。何があなたを動かしたのか。

とてもシンプルだ。mRNAが安全で効果的な医薬品として使えるようになれば、医療の世界を根底から変えることができる──当時の私はそう考えた。mRNAが使えれば、生命科学で50年前から使われている遺伝子組み換え技術を活用できる。さらにmRNAは細胞内に入り込めるので、細胞の内部や細胞膜でタンパク質を作ることもできる。それによって、DNAに含まれるタンパク質の約3分の2を作れる。

この種のタンパク質は従来の技術では作れない。だから製薬会社が50年前から利用してきた低分子化合物を使い、これまで開発できなかった薬を開発できれば、生物学の可能性が一気に広がる。それを安全に実現する方法を発見できれば、医療を根底から変えることになると考えて、やってみることにした。

――モデルナのワクチンは世界を変えつつある。成功の秘訣は何だったと思うか。

まず、優れた科学に徹底してこだわったことだと思う。最初の2年間は資金もなかったので、小さな試行錯誤の連続だった

創業から2年後、アストラゼネカ社と大型パートナーシップ協定を結び、前払いで2億5000万ドルの現金が手に入った。そのおかげで質の高い研究ができるようになった。自分たちで実験して、何かうまくいかないことがあれば、チーム全員を集めてブレインストーミングを行い、予想どおりの結果にならなかった理由を議論した。

実験をするのは、うまくいくことを期待しているから。うまくいかないのは、実験前に立てた1つまたは複数の仮説が誤っていたからだ。

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