最新記事
台湾

コロナ第2波も即座に封じ込め成功の台湾、見習うことしかないその対応

Why Taiwan Is Beating COVID-19 –– Again

2021年8月4日(水)17時48分
ウェイン・スン(米バッサー大学助教)
台湾のワクチン接種会場

諸外国からの供与もあってワクチン接種が進んでいる WANG YU CHINGーOFFICE OF THE PRESIDENT, ROC (TAIWAN)

<水際対策の優等生・台湾は5月に感染者が急増したものの、2カ月後には制圧に成功。感染を抑え込んだ5つの理由とは>

新型コロナウイルスで世界中が震え上がっても、台湾ではほぼ「いつもどおり」の暮らしが続いてきた。

学校は開いていたし、コンサートや劇場には人が詰め掛け、飲食店もにぎわっていた。経済は順調で、海外暮らしの台湾人は先を争って本島へ逃げ帰った。入国管理を厳しくし、隔離措置を徹底し、感染ルートの追跡に努めてきた台湾はオーストラリアやニュージーランド、ベトナム、シンガポールと並ぶコロナ対策の優等生だった。

状況が一変したのは今年の5月。急激に新規感染者の数が増え、規制が強化されたので住民の生活は一変した。

しかし、2カ月もすると落ち着いた。1日当たりの新規感染者数は5月17日に539人まで増えたが、7月下旬の1週間では1日当たり20人を割り込んでいた。7月26日に確認された市中感染はわずか11件だったという。

同じアジアの優等生だったオーストラリアやベトナム、シンガポールは、今も変異株の侵入による感染拡大に手を焼いている。なぜ台湾だけが、短期間で第2波の感染を抑え込めたのか。理由はいくつか考えられる。

まず、台湾はマスクの着用や隔離の徹底、感染ルートと接触者の追跡といった従来からの対策を一段と強化した。市中感染が問題になる以前の昨年4月から、台湾では公共交通機関を利用する際のマスク着用が義務化されていた。当局は今回、この措置を拡大し、全住民に自宅外でのマスク着用を義務付けた。

さらに、海外からの渡航者向けに用意した隔離施設に国内の感染者も受け入れるようにした。自治体レベルでも独自に隔離施設を用意した。これで家庭内感染が減り、結果として市中感染も減った。

民主主義を重んじる台湾政府は人権に配慮し、スマートフォンの位置情報を使った強制的な監視には抑制的だった。その代わり商業施設や飲食店を利用する客に協力を求め、連絡先を紙に記入してもらったり、追跡アプリのQRコードを読み取ってもらったりした。こうした記録は不完全でも、人権重視の姿勢を示すことで住民の信頼を勝ち得ることができ、マスク着用と隔離の徹底もあって、感染率を下げることに成功した。

批判の声を受けて政策を修正

第2に、台湾政府はコロナ対策において専門家や住民の批判に耳を傾け、必要に応じて政策を変更した。

ウイルスが換気の悪い閉鎖空間で、空気中のエアロゾルを介して感染することは今や世界中で認められているが、台湾当局は当初、表面に付着したウイルスや飛沫を介した感染を警戒していた。そのため社会的距離の確保や仕切りの設置などで十分と考え、店内での飲食禁止には消極的だった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平案、ロシアは現実的なものなら検討=外

ワールド

ポーランドの新米基地、核の危険性高める=ロシア外務

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中