最新記事

アフガニスタン

アメリカとタリバンの「反IS共闘」に現実味

2021年8月30日(月)17時55分
ジョシュア・キーティング(スレート誌記者)
カブール自爆テロ

8月26日の自爆テロもアメリカとタリバンを接近させる一因になる? AP/AFLO

<過去にもアメリカは「イスラム国」と対抗するために敵対勢力と連携してきた。脱出作戦が困難を極めるなか、アメリカとタリバンが手を結ぶシナリオが浮上?>

ちょうど米副大統領のカマラ・ハリスがベトナムを訪ねているときに、アフガニスタンで混乱と流血と絶望の脱出劇が繰り広げられたことは、46年前の出来事をいやでも思い出させた。今回の米軍のアフガニスタン撤退と、約半世紀前に起きたベトナム戦争時のサイゴン陥落を重ね合わせたアメリカ人は多い。

一方、現在のアフガニスタン情勢に関して見落とせないのは、アメリカと、アフガニスタンを掌握したイスラム主義勢力タリバンの関係性が変容しつつあることだ。

8月26日にアフガニスタンの首都カブールの国際空港近くで起きた自爆テロにより、米兵13人を含め170人以上が死亡した後、バイデン大統領はこう言い切った。「私たちは決して許さない。決して忘れない。必ず追い詰め、代償を払わせる」

しかし、バイデンが決して言わなかったことがある。タリバンを非難する言葉は一切口にしなかったのだ。むしろ、テロを実行した過激派組織「イスラム国」(IS)傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」を「タリバンの宿敵」と名指しした。

脱出作戦を進めるためにタリバンの協力が必要という面もあっただろうが、それだけではない。IS-Kの脅威は、脱出作戦終了後も続く。しかもタリバンが賢ければ、IS-Kの脅威を強調することにより、アメリカや同盟国のタリバン政権への態度を軟化させようとするに違いない。

実際、8月26日のテロでIS-Kが殺害したアメリカ人は、2019年以降にタリバンが殺害したアメリカ人よりも多い。少なくとも最近のタリバンは、米軍の撤退を加速させるために、米軍への攻撃を避けていた。IS-Kにそのような発想はない。

それに、タリバンもIS-Kの根絶を最優先課題と位置付けているようだ。カブールを制圧すると早々に、刑務所に収容されていたIS-Kの元リーダーを処刑している。

これまでアメリカは、ISと対抗するためにしばしば敵対勢力とも連携してきた。イラクとシリアでは、シリア反政府勢力(2001年の9.11テロを実行した国際テロ組織アルカイダと極めて近いグループもあった)や、クルド人武装勢力(米政府がテロ組織に指定しているグループと連携していた)とも手を結んだ。

アフガニスタンでも既に、以前は想像もできなかったことが起きつつある。例えば、CIAのバーンズ長官がカブールを訪れて、タリバンの事実上のリーダーと会談していたことが明らかになっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、州裁判官選挙に介入 保守派支持者に賞金1

ワールド

米テキサス・ニューメキシコ州のはしか感染20%増、

ビジネス

米FRB、7月から3回連続で25bp利下げへ=ゴー

ワールド

米ニューメキシコ州共和党本部に放火、「ICE=KK
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中