ワクチン未接種なら入院リスクは29倍 米CDC研究
デルタ株は? 一定の効果を維持
強い感染力をもつデルタ株に関しては、ワクチンの効果はどうだろうか? デルタ株に限定した場合、依然有効ではあるものの、その効果はやや衰える可能性があるようだ。CDCは、アメリカの6つの州で働く医療関係者などを対象に、ワクチン接種の有無と感染状況を調査した。その結果が8月24日に発表され、報告書はデルタ株について、ワクチンの効果が弱まっていることが確認されたとしている。
報告書によると、2020年12月中旬から2021年8月中旬までの調査期間中、デルタ株が少数派であった期間には、ワクチンは91%の感染予防率を持っていた。ところが、デルタ株の症例が過半数を超える期間では、66%にまで低下していたという。
CDCは報告書のなかで、「新型コロナウイルス・ワクチンの感染予防効果がある程度減少」したことが確認されたが、「感染リスクを3分の2低下させる効果が維持されており、新型コロナ・ワクチンの重要性と恩恵が明らかになった」と結論づけている。
なお、症例が数十件単位と少ないことと、ワクチン接種後の経時変化によって自然に抗体が減少している可能性があることから、デルタ株に関する断定的な情報にはならないとCDCは付記している。
ウイルス数は変わらず
感染者が保有するウイルスの量は、感染の広まりやすさと密接に関係している。ウイルス量についてCDCが分析したところ、ワクチンによる明確な変化はみられなかった。感染者から採取したサンプル中のウイルスの数の多さを示す「Ct値」について、デルタ株がケースの大半を占めるようになった7月時点のデータをCDCが調査したところ、ワクチン接種の有無による顕著な差異がない結果となった。
ことデルタ株に関しては、ワクチン接種後も感染時のウイルス量がほぼ変わらないことがすでに報告されており、これが感染を広めやすくしている理由のひとつだと考えられている。今回の研究は、これを裏付けるものになりそうだ。
なお、Ct値とは、PCR検査の過程で何回ウイルスを増幅させたかを示すものだ。新型コロナウイルスのPCR検査では、ウイルスのRNAをDNAに逆転写したあと、温度を変化させることでDNAを段階的に増幅させてゆく。1回のサイクルごとにDNA量は2倍になり、何回のサイクルで検出閾値に達したかをCt値と呼ぶ。
Ct値が低いほど、もともとのサンプル中に多くのウイルス量が含まれていたことになる。基準は国や検査機関などによって異なるが、一般には40回のサイクル後に閾値に達しない場合、陰性と判定される。
以前の生活を取り戻す鍵に
デルタ株の拡大によって状況はやや変わりつつあるものの、少なくとも従来株との混在データでは、前述のとおり入院リスクを29分の1に押し下げる効果が確認された。CDCのロシェル・ワレンスキー所長は「ワクチンはこのパンデミックに対処するうえで、私たちが持つベストな手段なのです」と強調する。
アメリカでは、現時点でワクチン未接種の人々の動向に注目が集まっている。こうした人々に接種が浸透するか否かで、来年春以降の社会的状況が変わるとの見方もある。ニュース専門局の米CNBCは、米感染症対策トップのアンソニー・ファウチ博士の発言として、ワクチン接種のさらなる普及が社会の正常化の鍵だとする認識を伝えている。
ファウチ博士はCNNの報道番組に出演し、感染が拡大しやすい冬場を乗り切り、さらにワクチン接種を現在より多くの人々が受けることができれば、「春になれば、たとえばレストランや劇場といった私たちが望んできたことを再開するなど、ある程度の正常な状態に戻りはじめることができるかもしれない」との認識を示している。
アメリカではワクチンに懐疑的な立場から接種を希望しない人々が目立つが、一方の日本では、接種したくても予約を取れない人々が若い世代を中心に多い。病床がひっ迫するなか、入院リスクを29分の1に低減するという調査結果が発表されたいま、改めて円滑なワクチン接種の推進が求められそうだ。