恐竜絶滅時に起きた高さ1500mの津波 その痕跡がアメリカの地下に眠っていた
小惑星が衝突したときに起きた津波の痕跡が発見された Naeblys-iStock
<ユカタン半島を直撃した小惑星は、想像を絶する規模の大波を引き起こした>
太古の世界を支配し、その後跡形もなく消え去ってしまった恐竜。その絶滅の経緯については現在でもさまざまな学説が議論されているが、宇宙から飛来した小惑星が根源になったとの説が最も有力だ。
今からおよそ6600万年前の白亜紀末期、宇宙から飛来した小惑星がメキシコ東部のユカタン半島近海を直撃したとされる。衝撃でチリが舞い上がり、太陽光は数年間というスパンで地表にほぼ降り注がなくなった。地球規模の寒冷化によって生物に適さない環境となったのに加え、光合成が行えずにエサとなる植物が減少したことから、恐竜を含めた地球上の生物の75%が死滅した。
小惑星の落下ポイントに近い地点では、さらに別の要因が生態系にインパクトを与えることとなる。地表への衝突エネルギーによって大規模な津波が起きていたのだ。その規模についてはさまざまなパターンで推定が進められているが、一説によると北米大陸を襲った第1波の高さは1500メートルに及び、その後も規模を少しずつ小さくしたものが繰り返し押し寄せたという。この説を裏付ける波形の化石が、メキシコ湾に臨むアメリカ南部のルイジアナ州で発見された。
エネルギー会社の調査で浮かんだ謎の画像
発見のきっかけとなったのは、エネルギー企業が発見した奇妙な地形パターンだった。ルイジアナ州に広がるイアット湖とその湖畔は、大自然を身近に感じるレクリエーションの場として親しまれている。ヒノキが広がる湿地帯ではビーバーが目撃されているほか、バス釣りに加え、春と秋には渡り鳥の観察も楽しむことができる。石油や天然ガスなど炭化水素エネルギーの採掘に注力する米デボン・エナジー社は、このイアット湖付近のエリアに埋蔵されたエネルギー資源の可能性に目を付けた。
そこでデボン社は、湖の付近で地震探査を行うことにした。地震探査とは、爆発などによって大規模の音波を人工的に発生させ、地下の堆積層に反響した波を拾うことで深部の構造を推定する手法だ。しかし、その結果に担当者は首を捻る。得られた解析画像には、小さなシワを周期的に繰り返したような、これまで見たこともないようなパターンが表れていたのだ。
地形の正体を見極めたいデボン社は、ルイジアナ大学ラファイエット校に画像データの解析を依頼する。このことが、白亜紀末期の大イベントに迫る発見のきっかけとなった。同校の地球科学教授であるゲーリー・キンズランド教授は、科学ニュースを伝えるライブ・サイエンス誌に対し、その瞬間の驚きをこう語っている。「一目見た私は、『嘘だろう!?』と口走ったのです。」
地上最大のメガリップルマーク
地震探査の画像が捉えたのは、6600万年前の小惑星の衝突によって巨大な津波が起きたという証拠そのものだった。一般に、波とは単なる水面の変動であり、その場限りで消えてしまう現象だ。しかし、長期間あるいは巨大な水の流れに晒されることで、その姿が残ることがある。リップルマーク(漣痕、れんこん)と呼ばれる現象だ。波打ち際や砂丘などの砂紋もリップルマークの一種で、波あるいは風の力で地表に周期的な紋様が刻まれたものだ。