最新記事

人権問題

小林賢太郎批判の「人権団体」、反差別の矛盾が酷い──日本のメディアにも課題

2021年7月30日(金)19時02分
志葉玲(フリージャーナリスト)

だが、当時、ガザ現地で取材を行っていた筆者が見たものは、救急車や病院、発電施設、そして非戦闘員である一般市民の避難所となっていた国連運営の学校への攻撃であった。これらのイスラエル軍の攻撃は、明確に国際人道法に反するものだ。ハマス側もロケット弾を発射していたし、市民への無差別攻撃という点でこちらも批難されるべきものだが、イスラエル軍の攻撃の規模、それによる被害の深刻さは、ハマスに責任を押し付けて済まされるものではない。

shiba20210730174201.jpg
イスラエル軍に破壊された救急車 筆者撮影 無断使用禁止

shiba20210730174202.jpg
イスラエル軍に攻撃された学校にて筆者撮影 無断使用禁止

shiba20210730174203.jpg
イスラエル軍に空爆されたガザの発電所 筆者撮影 無断使用禁止

イスラエルの強硬派への肩入れが親ユダヤ?

そもそも、イスラエルの強硬派に肩入れすることが、親イスラエル、親ユダヤなのかという問題もある。例えば、2018年5月、当時のトランプ政権が在イスラエル米国大使館を、エルサレムに移転した際は、イスラエルの市民からも反対の声があがった。それは、エルサレムがユダヤ教、イスラム教、キリスト教の共通の聖地であり、その帰属は常に中東での紛争の火種となってきたからであり、米国大使館の移転=エルサレムがイスラエルに帰属するというアピールは、中東和平の障害となるからである。現地では、右派ユダヤ人の人々が移転を歓迎していたが、ユダヤ人の平和団体やその支持者達は、移転に抗議するデモを行っていた。また、当時ガザでは、移転へ抗議する人々に対しイスラエル軍が実弾発砲を繰り返し、死傷者が相次いでいたことについても、ユダヤ人の平和運動家達は、イスラエル政府や軍を批判していた。一方、SWCのクーパー氏は毎日新聞のインタビューに対し、ガザ市民へのイスラエル軍の発砲を擁護していたのである。

shiba20210730174204.jpg
デモ参加者に銃を向けるイスラエル軍の兵士 ガザにて筆者撮影 無断使用禁止

shiba20210730174205.jpg
ガザの人々のためにデモを行うイスラエルの若者達 筆者撮影 無断使用禁止


「ユダヤ人が怒るから」ではなく

日本において、ホロコーストやナチス・ドイツに関連する不適切な言動について、メディアがいちいちSWCにコメントを求めたりすることも、本来、おかしなことである。大量虐殺は、国際人道法に反する戦争犯罪であり、人権を普遍的価値とする国際社会において絶対に許されない行為だ。ユダヤ人を大量虐殺したホロコーストに対し、ユダヤ人だけではなく、日本人としても許されないものとみなす。それは世界人権宣言や国際人権規約、国際人道法を支持する日本として、当然の所作なのである。そうした意識がないからこそ、ホロコーストを揶揄するようなコントが行われ、会場にいた観客達もどっと笑う、ということがあったのだろう。同様に、イスラエルの右派に肩入れし、パレスチナの人々の人権には無関心なSWCを「人権団体」と紹介している時点で、そもそも人権に対する理解が十分でないということを、日本のメディア関係者は自覚すべきなのだ。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]
志葉玲
パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。オフィシャルウェブサイトはこちら


20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中