最新記事

香港

香港よ、変わり果てたあなたを憂いて

A BESMIRCHED ORIENTAL PEARL

2021年7月21日(水)18時47分
阿古智子(東京大学大学院教授)

210713P24_AKO_04.jpg

警察が旗で「国安法違反の可能性」と警告 Chan Long Hei for Newsweek Japan

株式市場で儲けを出した黎は81年に、アパレルのチェーン店・ジョルダーノを創業した。そしてジョルダーノの株を売ることを決め、90年に壹傳媒(ネクスト・デジタル)を設立し、週刊誌『壹週刊』を発刊した。

黎智英は「(89年の)天安門事件がなければ、メディアを設立していなかった」とさまざまな場面で話している。黎は、当時の李鵬(リー・ポン)首相に向けて公開書簡を出し、中国政府の対応を批判した。香港返還後、多くの香港メディアは中国寄りになったが、壹傳媒は一貫して共産党政権を強く批判し、自己検閲をしないと宣言してきた。

メディアで始まった「忖度」

95年の蘋果日報創業時の最初の社説「私たちは香港に属している」にはこう書いてある。

「私たちが作ろうとしているのは、香港人の新聞だ。香港の主権が返還されるまであと2年、97年以降の変化を恐れているか? そうだ。私たちは恐れている。しかし、私たちは恐怖に脅かされたくはない。私たちは悲観論に目をくらまされたくもない。私たちは前向きに、楽観的に未来に立ち向かわなければならない! 私たちは香港人なのだから!」

蘋果日報は最も多い時には1日の販売部数が50万部以上あり、5000人以上の従業員を抱えていた。しかし、中国市場を重視する企業は、中国・香港政府への批判を鮮明にする蘋果日報に広告を出さないようになった。2019年にニューヨーク・タイムズの取材を受けた黎は、広告の減少で毎年約4400万ドルの収益を失ったと述べている。昨年の販売部数は10万部未満にとどまり、従業員は800人以下に減っていた。

国安法の施行により、香港のメディアはますます萎縮せざるを得なくなっている。あるメディアでは若者の就職難という一般的な社会問題を扱う場合も、ネガティブな論調に対して上層部から再考を迫られることがあるという。そんななか、蘋果日報は独立した主張を展開する最後の民主派メディアとして、紙の部数は減ったが、デジタルの会員数を伸ばしていた。

それでも表現し続ける香港人

6月24日、蘋果日報にとって最後の日。発行部数が約8万部の同紙はこの日、100万部を印刷することに決めた。ニューススタンドやコンビニに新聞がうず高く積み上げられ、前日の夜中から長い列をなして待っていた人々に、最後の蘋果日報が販売された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国格付け、公的債務急増見込みで「A」に引き下げ=

ビジネス

トランプ氏、対中関税軽減も TikTok売却承認な

ワールド

デンマーク首相、グリーンランド併合を断固拒否 米に

ビジネス

米国株式市場=急落、ダウ1679ドル安 トランプ関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 2
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のために持ち込んだ?
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 6
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中