最新記事

東京五輪

失敗に失敗を重ねた日本政府、五輪後の「政治ゲーム」にはどう影響する?

A Quiet Olympics

2021年7月21日(水)17時44分
伊藤隆敏(米コロンビア大学国際・公共政策大学院教授)
バッハIOC会長(左)と菅首相

バッハIOC会長(左)と会談した菅首相 KIMIMASA MAYAMAーPOOLーREUTERS

<全てはコロナ対策に失敗したことのツケ。秋の自民党総裁選と総選挙はどう動くのか>

日本政府は7月8日、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、東京に4回目の緊急事態宣言を発令した。期間は7月12日から8月22日まで。これによって東京五輪は観客数が著しく制限されることとなり、大半の会場では無観客での開催が決まった。

菅義偉首相にとっては大きな痛手だ。菅首相はこの五輪を、東日本大震災から立ち直った日本の姿を世界に示す「復興五輪」と位置付けていたが、その狙いを果たすのは難しくなった。東京では五輪開幕に向けた祝祭ムードが一向に盛り上がらず、経済効果も期待できない。

日本の緊急事態宣言は、欧米諸国のロックダウン(都市封鎖)に比べて、はるかに緩い。市民はショッピングや外食を楽しむことができる。ただし飲食店や大規模小売店は営業時間の短縮を求められ、前回3回目の発令からは飲食店に酒類の提供停止が要請されている。

菅政権は国民に、宣言期間中は不要不急の外出を控え、テレワークを積極的に取り入れるよう求めている。だがこれらの施策に成果があったのは、昨年4~5月の1回目の宣言のときだけだ。

その後、政府は別のアプローチを取る。例えば1回目の宣言終了後に始まった「GoToトラベルキャンペーン」では、観光関連産業のテコ入れのために旅行代金を割り引き、旅先で使えるクーポン券を発行した。

だが昨年末にかけて感染が拡大したため、これも中断。2回目の緊急事態宣言が1月8日から3月21日まで、3回目が4月25日から6月20日にかけて出された。

ワクチン接種率の低迷が致命傷

緊急事態宣言が発令されては解除されるという状況は、過去の事例から学ぶ意思と能力が政府に欠けていることを示している。

対照的な例がニューヨークだ。昨年春には世界の感染拡大の中心地とされていたが、ロックダウンに近い状態を長期にわたって維持したことで、今年に入ってからは後戻りすることなく経済活動を拡大させている。

日本政府のコロナ対策には、当然ながら国民から強い批判が寄せられている。ワクチン接種が進まないことへの不満も高まってきた。

実際、日本は接種率で他の多くの先進国に大きく後れを取っている。人口100人当たりの接種回数は7月15日の時点で52.8回。これに対してフランスは93.5回、アメリカは100.5回、ドイツは101.4回、イギリスは120.4回だ。

マスク不要の生活に戻っているニューヨークなどの様子をテレビで目にして、多くの日本人が羨ましく思っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中